2日間の撮影から特別番組へ カメラマン■ 福田 功 (報道撮影部) |
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2007年4月4日、東京の桜は満開でした。 余命1ヶ月のがん患者さんのインタビュー取材。ディレクターも本人に会うのはこの日が初めてでした。インタビューをする病院に向っているとき、スタッフ一同、正直言って気持ちはかなり重たかったと記憶してます。しかし、そんな気持ちを吹き飛ばしてくれたのが、患者さん本人の長島千恵さんでした。病室に案内された私たちテレビクルーを、長島千恵さんはベッドの上で素敵な笑顔で迎えてくれました。正直、自分たちが想像していたよりもずっと元気そうな姿にかえって戸惑ってしまう位でした。極自然に私たちに対応してくれた心使いも嬉しかったです。 当人の病状から限られた取材時間しか頂けないので、簡単な挨拶の後に早速インタビュー取材を始めました。本人が一番楽な体勢だというので、場所はベッドの上になりました。お気に入りのクッションを抱えたままの千恵さんの姿を、私はカメラマンとしてごくごくセオリー通りに正面から狙えるカメラポジションをとることにしました。千恵さんが淡々と語る乳がん発覚の経緯から治療歴、そして現在の状況はあまりにも深刻でした。インタビューに答える千恵さんの言葉の一つ一つ、そして真剣に話す千恵さんの表情のあまりの強さがファインダーを通して痛い程感じ取れました。 そして途中から、千恵さんの顔を正面から撮り続ける事がどうしても耐えられなくなってきました。うまく言葉で言い表せないのですが、千恵さんの言葉と表情の強さは正面から対峙するのにはあまりにも強すぎたから。見ている受け手側に、逃げ場が無くなってしまうような気がしたのです。1本目の撮影テープが終わり、カメラを止めてテープチェンジをする時、私は迷わずカメラをベッドの横に移動し千恵さんを横顔で撮影するポジションを取りました。そして撮影再開後は、極力アップを撮らない様にして撮影を続けました。 千恵さんの話は今の心境、父親への思い、夢と続けられましたが、あえて千恵さんをアップでない横顔で捕らえ、目線を外した撮り方をした事が、今振り返ると結果として良い形になったのかなと思います。 OAをご覧になった方は、病室でのインタビューは2台のカメラで撮ったのかと思われるかもしれませんが、実はこういった状況だったのです。ドキュメンタリー撮影の面白さでもあり、また責任の重さでもあるのが、カメラマンがカメラポジション、撮影サイズ、フレーミングのかなりの部分を任されている所にあると思います。シナリオや絵コンテがあるわけではありません。次の瞬間どんな動きがあるのか、どんな発言や言葉が飛び出してくるのか判らない状況で、カメラマンは経験と勘と度胸で、とっさの判断で絵を作っています。それは今回の様に座りのインタビューのときも同じなんです。 カメラマンの面白さでもあり、怖さでもあるのだと思います。 翌4月5日が模擬結婚式でした。 家族や友人たちがかなえてあげた千恵さんの夢。そのウエディングドレス姿を、私はカメラマンとして唯々奇麗に美しく撮ってあげようという気持ちだけで撮影に臨みました。最後まで自由に撮影させてもらいました。 千恵さんと太郎さん(千恵さんの大切な方)の笑顔からは「余命一ヶ月」「末期がん」という現実は微塵も感じ取れませんでした。ところがカメラを反対側に振ると、列席しているお父さん、親戚、友人たちの姿が否応なしに飛び込んできます。その表情、涙もまた紛れも無い現実でした。冷静に撮影しなければいけない立場なんですが、私自身何度もこらえ切れなくなり、ずっとファインダーを曇らせての撮影になりました。これ程悲しく、感動的な結婚式を撮影する機会もそうは無いのではないかと思いました。その後、千恵さんの状態は悪くなる一方で、病室内の映像は全て家族、友人たちの映像となりました。 そして連休明けの5月はじめ、千恵さんは他界されました。 夕方のニュース番組での放送が評判になり、2時間枠の特別番組となった訳ですが、特別番組の為にご家族友人の方のインタビューを追加取材しました。別チームの撮った再現シーンも番組に織り込まれました。しかし、番組の根幹となる部分の映像は、これまでお話したとおり、たった二日間の撮影分でしかなかったのです。特別番組ではその二日間、ある意味集中して、思いきって撮影した素材の殆んどを使って頂いた形になりました。 番組放送の数日後、TBS内で千恵さんの家族、友人も招いての番組の打ち上げがありました。この様な番組では異例の事だと思います。 今回、この様な良い形で番組つくりが出来たのは、取材される側の家族、友人の方々と取材する側の間でキチンとした信頼関係が最後まで作れた事が大きな要因だったと思ってます。 お父さんをはじめご家族の方に、千恵さんが亡くなる前から撮影をしたものとして、改めてお礼を述べお話をする機会が出来ました。番組の事、結婚式の映像の事など、本当に良かったと言って頂けました。 太郎さんからも、 「今回の番組は100%千恵が望んでいた形になったと思います」と言って頂けました。作り手の一人として本当にありがたい言葉でした。 この場をお借りして、長島千恵さんのご冥福をお祈りしたいと思います。 素敵な笑顔とメッセージ、本当にありがとう。 |
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