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トップインタビュー/角川春樹 (株)角川春樹事務所 特別顧問
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時代を超えて生きるということ



「男たちの大和」での復活と「蒼き狼」での苦杯を経て
なぜ日本映画史上の傑作に敢えていま挑戦したのか!?
観客が求めるもの、日本映画界との闘いはさらに続く─

 巨匠・黒澤明監督と主演・三船敏郎コンビの不朽の名作を、森田芳光監督と織田裕二主演でリメイクした「椿三十郎」が12月1日公開。
 日本映画史上、最も人々に愛されたヒーローをなぜ今、角川春樹氏は現代に甦らせようと決意したのか。キャッチコピーは、「この男、時代を超えて生きている」。春樹氏は約1年半前の本誌インタビューで、リメイクすることへのプレッシャーを問われた時、「黒澤監督が私にプレッシャーを感じるならわかるが、既に亡くなってしまっているからね(笑)」と確固たる自信を覗かせていた。黒澤版と比較されることを覚悟の上で、森田監督、現代のスター織田と共に新生「椿三十郎」を現代流の娯楽作品として仕上げている。 
 「男たちの大和/YAMATO」(06年)の大ヒットで日本映画界に華々しく復活しながら、続く「蒼き狼〜地果て海尽きるまで」(07年)で苦杯を舐めた春樹氏。これまでに幾多の困難と闘いながら、まさに犹代を超えて生きてきた畆身の中で、何か変化が起きたようだ。「椿三十郎」に賭けた思いや好調な東宝とのコラボレーション、続く作品などについて聞いた―。


「踊る大捜査線」の時代劇版!?

―今回、黒澤作品と比較されることはわかっていたと思うのですが、敢えてそこに挑戦した理由は。

角川 織田くんも森田監督も私も考えたことは一つ、当たれば勝ちだと。当てることだけを考えてこの作品をやろうと話し合った。特に森田監督の場合は黒澤監督へのリスペクトがあったからね。いくつかのシーンでは前作のカットと同じような感じで撮ることを敢えてしていたりする。だから本当に彼の黒澤監督に対する思いというのは、素直に出ているような気がしたね。その結果、黒澤監督の作品ではなく、森田監督の「椿三十郎」になっていた。

―森田監督、織田さんは春樹さんの期待に応えてくれたと?

角川 最初は正直不安だったんですよ(笑)。撮影初日を見た時に、明らかに森田監督は黒澤監督、織田くんは三船さんへの過剰な意識が出ていた。それも冒頭のシーンだったのでね。だから森田監督に「大丈夫か?」と聞いたくらい。その日、帰ってからDVDで冒頭シーンを見直したんですよ。その時は「参った!」と思った。やはり黒澤監督作品は相当かっちりしているんだよね。カメラワークもそうだし。「椿」は黒澤作品のなかでもブレのない作品、緊密なんだよ。あれだけ笑いもあり殺陣もあるんだけど、きっちりと計算されている。やはり黒澤さんという人は、まずシナリオライターなんだなと感じた。比較されることは覚悟の上。黒澤さんと同じように脚本に参加するくらいの感覚を持ちながら、それでも黒澤版を離れて、新しい作品として臨まないと、プレッシャーで飛ばされてしまうなあという気がしたんだ。
 だから自分としては、「踊る大捜査線」の時代劇版でいいやという割り切りをした。当てることだけのみに作品を考えようとね。思ったのは、いま黒澤さんが生きていて、三船さんでモノクロであのまんまで、正月映画として公開しても、恐らくヒットはしても大ヒットはしないのではないかと思うんですよ。つまりあれは1962年という、まだ日本が高度成長をする前、戦後の匂いを引きずっている時で、戦地から戻ってきたような狡愡綾熟梱瓩任△蝓仲代(達矢)さん演じる室戸半兵衛にしても、あのキャラクターが持っている雰囲気、ギラギラしたものというのは現在にはないんですよね。戦争が終わってだいぶ経つんだけど、まだ払拭し切れていない飢えの感覚みたいなものがあった。映画というものが常に時代を反映するものだとすると、国民の感情も、作る方も演じる方も時代の産物としてやっている。だからこそあの時代に大ヒットしたのではないか。今度の森田版は、現代として成立するドラマ、観客が期待するドラマになっている。織田くんという存在もね。


―改めてお聞きしますが、なぜ今この作品をリメイクしようと思ったのか。

角川 黒澤作品の中で最も笑いがある。それから一番殺陣を意識している。殺陣の面白さを一番見せたのは「椿」だったんですよ。それを今回拡大している。前作よりも20分以上長い。どこが長くなったかというと、笑いの部分と殺陣の部分だよね。それはなぜかというと、正月映画として考えていたのでバラエティ色を強めようという意識があった。だから、あまり関係ない腰元たちでちょっと色っぽく笑わせてみたりと、随所に森田流の現代劇の要素を持ち込んでいる。
 また、現代に甦るべきドラマ・設定であったと思う。今回のキャッチコピーが「この男、時代を超えて生きている」というコピーで、これは東宝映像本部宣伝部の伊勢(伸平)プロデューサーが、「なんかいいアイデアないですかねえ」と言うので、そんなのは簡単、「この男、時代を超えて生きている」これでいいと。そしたらそれ頂きますとなり、宣伝部の管轄も兼ねている営業の千田(諭)専務も、「やはり春樹さんは俳句やっているから」だと。結局、最後までこれを押し通してしまったからね。

―オリジナル脚本にこだわったのは。

角川 それは森田監督のアイデア。森田監督はそのまま行きたいと。今回、やはりオリジナル脚本をいじらなかったことが、一番大きな成功の要因だと思った。つまりドラマが崩れていないんだよね。完璧に構築されているドラマツルギーなんだよ。実に見事。森田監督の演出力でもあるんだけどもね。

―殺陣シーンもこだわったのですか。

角川 森田監督の演出で一番心配したのは殺陣の部分だったんだよ。特にラストシーン。R15になってしまうので、あの血は出せないぞと。その中でどうするのかと、かなり殺陣師の方と打ち合わせをしていたけど、当初、森田監督もラストシーンは考えつかなかった。でも、「考えますから任せて下さい!」と言う。実際見てみて、これは擬音、効果音と大島ミチルさんの音楽、これによって、普通映画ってラッシュを見た時に、音楽と効果音が入ると2、3点アップするなと計算がつくんだけども、今回は5点アップした。黒澤作品も相当効果音のことを考えていたと思うんだけど、当然音は前作よりもはるかに技術が進んでいるから、効果音のレベルがあがるのはわかる。黒澤さんという人は西部劇の巨匠、ジョン・フォード監督が心の師だったわけだよね。今回、森田、大島ミチルさんがどこまで考えたのか、無意識なのか意識的なのかはわからないけども、ラストシーンの対決は、ジョン・フォードの西部劇だったんだよ。それくらい演出と効果音と音楽がマッチしていた。黒澤さんの心の師だったジョン・フォードにもっと近づいたのではないか。西部劇のタッチが出ているよね。元々、「荒野の用心棒」が出来たように、黒澤さんの作品というのはウェスタンに向いている。「荒野の七人」なんてのもあったけど、やはり西部劇の匂いが強い。それが今回もっと強調されている気がしたね。


(2007/12/27)
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