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哲学者・桜井淳 原子力発電開発の課題
2009/5/27
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【プロフィル】桜井淳 さくらい・きよし 日本原子力研究所で炉物理(理学博士)、東京大学で科学技術社会論(博士論文作成中)を研究。今年4月から東大で神学を研究中。現在、自然科学と人文社会科学の分野を中心とした評論活動に専念。62歳。群馬県出身。 |
■米独以上の独自技術を育成せよ
日本の原子力発電技術はいくつかの課題を抱えている。最大の課題はこれまでの米国依存体質からの脱却だ。この問題を吟味してみたい。
米国の2つの原子炉メーカーは1950年代前半に軽水炉を開発した。しかし、経済性の成立まで実証したのは最初の軽水炉の設計から約10年後のことである。経済性の評価では60%の設備利用率が仮定されている(稼働率は、予定運転期間に対する実質運転期間だが、設備利用率は、予定定格運転期間プラス定期点検期間に対する実質定格運転期間)。
米国の平均設備利用率は初期のころ、故障続きだったために60%台に低迷していたが、その後改善され、80年代以降はほぼ単調増加を示し、いまでは状態監視技術(回転機器などに振動センサーや温度センサーなどの各種センサーを設け、その信号をコンピューター解析して正常と異常兆候の境界をいち早く識別する技術)と長期間運転方式(最長約2年間)の採用により、世界トップの驚異的な90%台に到達している(日本の電力会社などと異なり、資本力と技術力の異なる数多くの電力会社などによる104基もの平均値)。
≪低迷する日本の設備利用率≫
先進国は60年代後半から70年代半ばにかけて、米国の軽水炉技術を導入した。その明暗を分けた代表例は日本とドイツだ。日本は問題の生じた材質やシステムの部分的改善にとどめていたが、ドイツは軽水炉技術を読み解いて換骨奪胎し、原形をとどめないほどの改善を施した。その結果、両国の安全規制の考え方には相違があるものの、90年代後半から設備利用率の傾向に大きな差が生じた。日本は、最高84%から下降傾向に陥ったのに対し、ドイツは、そのまま単調増加を示し、米国同様、90%台の設備利用率を維持している。
日米独では、技術や安全規制の考え方に相違があるため、単純な比較はできない。米国では、原子炉停止中の2〜3週間に行うのは燃料交換と最適燃料配置、大型機器の点検修理のみである。そして状態監視技術を基に、運転中に機器などの異常兆候を検出し、そのつど原子炉を停止し修理している。日本では、設備利用率を高めて経済性を改善するため、2000年ごろから、それまでの90日点検を40日点検に変更し、24時間体制で、予防保全の観点からすべての機器などの点検修理(摩耗部品の交換含む)を実施してきた。
≪本質から眼をそらす≫
しかし、最近ではさらに経済性を向上させるため、大型機器などの摩耗部品の合理的利用期間を定めるようになった。それのみならず、数年以内に、米国でよい結果を出している状態監視技術と長期間運転方式の実施まで決定している。日本は、ドイツのように独自の技術を持てず、米国依存に明け暮れてきたが、本質から眼をそらしてはいないか。
≪老朽化や技術管理に起因≫
日本は、現在の運転方式から米国方式に変更しても、設備利用率に目立った改善は期待できない。日本のいまの1サイクル1年方式の設備利用率でも約90%まで到達できる。経済産業省が公表した日本の昨年度の平均設備利用率は、経済性が成立するギリギリの60%にすぎず、新潟県中越沖地震による損傷で停止した柏崎刈羽発電所の7基を除外しても、72%止まりである。よって、地震という偶発的な自然災害による影響ではなく、老朽化対策や全体的な技術管理の考え方に起因していると考えるべきである。日本と米独の設備利用率の差は独自の技術が持てるか否かの差である。日本は、これまで、新型軽水炉を開発し、いま、受動安全系を備えた次世代軽水炉を開発中だが、いずれも新技術ではなく、軽水炉技術を基にした合理的安全設計による大型化にすぎない。「もんじゅ」も独自の技術ではないため、独自の発電炉の開発に失敗している。
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