(注1)研修先を選ぶ理由としては、臨床研修病院は「症例が多い」、「研修プログラムが充実している」が上位を占めるのに対し、大学病院は「出身大学である」、「実家が近い」が上位を占めている(厚生労働科学研究費補助金研究「平成17年度『臨床研修に関する調査』報告」(2006(平成18)年8月))
(注2)医師の需給に関する検討会「医師の需給に関する検討会報告書」(2006(平成18)年7月)
(医師数全体の増加と地域における医師不足)
医師数は、全国的には毎年3,500〜4,000人程度増加しているが、都道府県間、また同一都道府県内でも県庁所在地のある医療圏とそれ以外の医療圏間で地域格差がある。都道府県別の人口当たり・面積当たりの医師数を見ると、全体としては、西日本では多く、東日本では少ない傾向にあることが分かる(図表2−2−7、8)。また、都道府県内の二次医療圏レベルで見ると、県庁所在地など都市部では多く、郡部では少ない傾向が見られ、その差は、都道府県別の医師数が少ない東日本で特に顕著となる傾向がある(図表2−2−9)。
一部の診療科における医師不足が、地域医療に大きな影響を及ぼしている例も見られ、特に、産婦人科・小児科においては、病院の診療科の閉鎖など大きな社会問題となっている。
産婦人科医数については全国的に減少しているものの、出生千人当たりの産婦人科医数は横ばいである一方、分娩を実施した施設(病院、診療所)は、この10年で26.5%減少している(図表2−2−10)。これは、不規則な勤務時間や訴訟リスクの高まり等により、産婦人科医が分娩の扱いを取りやめるという事態も生じていることが一因となっていると考えられる。
小児科医数の現状を見ると、その総数及び15歳未満小児人口1万人当たりの小児科医数はともに、1998(平成10)年以降増加傾向が続いている(図表2−2−11)。こうした増加傾向にもかかわらず、小児科を標榜(ひょうぼう)する病院は減少しており(図表2−2−11)、その一因に病院の小児科医の厳しい労働環境があげられる。特に、小児救急の医療機関における休日・夜間の小児患者の9割以上は入院の必要がない軽症であるという結果も出ており(図表2−2−12)、そうした軽症患者の集中が、小児救急を担う医療機関の厳しい勤務環境に拍車をかけている。
地域的な医師不足や、一部の診療科における医師不足の背景の一つに、医師臨床研修制度の義務化や大学病院を取り巻く状況の変化により、大学病院の医師派遣(紹介)機能が低下したことが指摘されている。具体的には、新しい医師臨床研修制度の導入により、臨床研修の場として大学病院より臨床研修病院を選ぶ医師が増えたこと等があげられる(注1)(第1章第1節(12頁)参照)。
今後の医師派遣(紹介)機能については、大学病院だけでなく、医療機関、医師会、行政等が協力していくことが求められている。
(病院勤務医の厳しい労働環境)
病院に従事する全体の医師数は増加しているにもかかわらず、病院内の診療外業務、臨床研修医等への教育・指導、外来患者数、外来患者1人に費やす時間の変化により、病院における勤務の繁忙感が強まっていることが医療現場から強く指摘されている(注2)。病院勤務医の1週間当たり勤務時間は、休憩時間や研究に充てた時間なども含めて計算すると、平均で約63時間、休憩時間等を除いた実際の従業時間は、平均で約48時間であり、病院勤務医の勤務状況は厳しいものとなっている。また、当直の翌日に通常勤務を行う働き方が多いことも指摘されている。
上記のような病院における繁忙感に加え、勤務に見合う処遇が与えられていないこと、さらに訴訟のリスクにさらされていることも含めて、社会からの評価も低下しつつあるという感覚が、病院診療の中核を担う中堅層に広がり、病院での勤務に燃え尽きるような形で、病院を退職する医師が増加しているとの指摘がある(注2)。
医師の年齢階級別に従事する施設の種別の分布を見ると、30歳代後半以降、病院や医育機関付属の病院等の医師数が減少し、診療所の医師数が増加している(図表2−2−13)。
今後は、病院勤務医の厳しい労働環境を改善するため、病院と診療所の機能の更なる分化・連携の推進や、病院勤務医の働き方の見直しが必要となっている。
医師全体で見ると、女性の従事医師数は全体の15%程度にとどまるが、近年、医師国家試験合格者の3割以上を女性が占めるまでになっており、医師全体に占める女性医師の割合が今後増加していくことが予想される。
診療科別では、特に産婦人科、小児科ともに、女性医師が大きな割合を占めているが(図表2−2−14 )、産科診療や小児救急の厳しい勤務環境と結婚、出産、育児の両立が難しく、女性医師が離職し、そのまま復職しないことが多いと考えられる。
こうした中、診療と子育てが両立できる支援体制を整える等、女性医師のライフステージに応じた就労支援を行っていくことが、今後の医師確保を考える上で重要となっている。
近年、医療紛争が増加している。医療紛争が起こる背景の一つとして、医師と患者との信頼関係が構築されていないことも指摘されている。
かかりつけの医師を持っている者の方が、そうでない者より、受けた医療への満足度が高いという調査もあることから( 図表2−2−15)、地域住民が日頃から相談できる医師を持てるようにすることが医師と患者との信頼関係の点でも望まれるところである。
専門医について諸外国と比較すると、制度の違いがあるため単純な比較はできないが、我が国では、アメリカに比べ人口比で2倍以上の専門医が養成されている分野がある一方で、アメリカの「Family Medicine」に対応するような、一人の人間を全人的に診る総合的な診療に対応できる医師の養成について十分に行われているとはいい難い状況にある(図表2−2−16)。複数の疾患を有する高齢者などへの対応が今後ますます増えることが予想されるため、そうした総合的な診療に対応できる医師の養成が課題となっている。
病院においては職種間の役割分担が十分でなく、様々な書類の作成などの事務手続、医療機器の操作や調整など、医師や看護師等以外に事務職や機器の専門家が行った方が効率的な業務までを、医師や看護師等が自ら行っている状況もあり、医師や看護師等とその他の職種との間での役割分担をより明確にしていくことが必要となっている。