北京オリンピックを連日観戦する Ⅱ

August
18
2008

 TV中継で女子レスリング浜口京子選手が銅メダルを獲得した瞬間、「まるで太陽のような笑顔」と実況したフレーズが忘れられません。本当に素敵な笑顔!メダルを獲得した多くの選手が「色」に対する感情表現を優先するのに比べ、彼女の笑顔には「色」への拘りが感じられませんでした。それはないはずもありませんが、彼女の笑顔は一言で表現すると「素直」。自分の評価を数値で表すのではなく、素直に「嬉しいものは嬉しい」と表現する。これは非常に大切なことのように思えます。テストの点数や偏差値、通知表や営業成績の評価、達成度、利益等々僕らの社会って何かと数値で表現したがります。気持ちや感情、愛情までも数値で?と思うと何やら嫌らしい悪寒がしますね。人間であるから喜怒哀楽を素直に表現してもいいと思うし、それを見る側もまた程度にこだわる必要はまったく無いと思います。TV画面いっぱいに表現された彼女の笑顔は、せせこましい社会生活を破顔一笑してくれる爽快さがありました。

 彼女のお父さんはご存知、元プロレスラーのアニマル浜口氏。そして氏の娘に対する屈託の無い愛情表現は日本中の娘を持つ父親の共感を呼んでいます。プロレスという世界で辛酸を舐め尽して来たお父さんは決してリング上の華やかなスターレスラーではありませんでした。このダーティな世界で生き続けるというのは、想像を絶する苦労があったに違いありません。でも、その中で、立派に家庭を築き、二人の子供を育ててきたということは、本当に大変なことなのだと・・・。僕もそういうことを身にしみて感じる年齢になって、初めて実感しています。そして、日本中のお父さんが大なり小なり言うに言われぬ苦労をしながら頑張っている。でも、家族に対し素直に感情を表現できないでいるんです。

 確かに歳をとって疲れてきた男は、元気もあまりないし冴えないかもしれませんね。アニマル浜口氏も世間で言われてるお父さんの最悪のパターンに近いかもしれない。でも、氏は娘に対する愛情をもう躊躇わず思い切り表現してしまった。そして京子選手はそれを素直に受け入れてくれた。その裏には、レスリングという、そしてオリンピックでメダルを、という父娘で歩んできた苦難の道があるからです。苦労を分かち合っているからこそ、お互いを受け入れることが出来ているのだと思います。銅メダルを獲得した瞬間の笑顔は、苦労してきたとか辛かったというプロセスの裏返しではなく、こころから素直に湧き出した感情であり、ご両親もまた心から嬉しかったというピュアな気持ちであったのだと思いますね。理屈のない喜びの表現こそ、見ていて清清しいものはありません。

 もちろんオリンピックは勝負の場ですから勝つために行く。でも僕は勝ち負けにそれほど大きな差があるとは思えないのです。選手たちの人生はまだ前半で、人間としてはその先が長いのです。オリンピックのステージで精一杯頑張れたなら、メダルの色など問題ではないですね。選手の皆さんは勝ち負けに拘らないでいい思い出として欲しいですね。

 

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Posted by 有海啓介 | この記事のURL |