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アメリカよ・新ニッポン論:第3部・平和の未来/7 「同盟」の世界展開

 ◇海自と陸自で温度差

 防衛省主催のユニークな国際会議が3月、東京都内で開かれた。「第1回共通安全保障課題に関する東京セミナー」。アジア・太平洋地域で災害・テロが起きたら、域内各国は軍事組織も含めて国際的に連携し、共同対処できないか。

 「日中韓3カ国が海賊対処でソマリア沖に一緒にいる機会を生かし、協力してできることがあれば……」。増田好平事務次官のあいさつには、さりげなく大胆な提案が盛り込まれた。

 中国が昨年12月末に海軍を派遣し、遅れまいと日韓両国も艦艇の派遣を決めた。各国別に自国商船を護衛するが、同じ海域で活動しているなら、互いに張り合うのではなく、共同訓練などで「東アジア安全保障体制」の模擬演習ができないか。アジアから遠いアフリカの海なら、自国の周辺国への刺激も小さい。

 会場を出る増田次官は「まだ先の話」と断りながら、「実現してニュースが流れた時、日中韓各国の国民がどう受けとめるかが重要だ」と意欲をのぞかせる。海上自衛隊幹部も「すでにいろんなチャンネルで検討している」と明かす。

 海賊対処の海自派遣には、いくつもの隠れた戦略的意義がある。戦後初の国益を守るための海外派遣、日中韓の軍事的連携の試行……。「もっとスケールの大きな意義は、米アフリカ軍とつながりができることだ」(海自高級幹部)

 海自は5月末にも、護衛艦に加えて哨戒機P3C部隊をアフリカ・ジブチに派遣する。ジブチは、07年に新設された米アフリカ軍の活動拠点だ。米メディアは、アフリカ軍新設の狙いを「豊富な資源を求めてアフリカに進出する中国への対抗措置」と分析。副司令官の一人に、初めて国務省の女性キャリア外交官が就いた。外交・経済的な手法で、紛争抑止・治安維持に取り組むためだ。「海自と米アフリカ軍のつながりができれば、日本外交の選択肢も広がるはずだ」(同)

 冷戦期、海自の連携相手は、専ら米太平洋軍(米大陸西岸からインド洋までを管轄)に限られた。9・11米同時多発テロの後、「テロとの戦い」への参加に伴って、米中東軍司令部(米フロリダ州タンパ、中東全域と中央アジアの一部を管轄)に幹部を派遣。補給艦が各国軍艦に給油し、初めて軍事作戦に参加した。それが今回、アフリカ軍まで広がり、日米同盟の世界展開が深化していく。

 対照的に、海外派遣を積み重ねてきた陸上自衛隊には、意外にも米軍との間に心理的な距離感がある。

 陸自対馬警備隊長の安藤隆太1佐は03年1月から1年余り、アフガニスタンで初代防衛駐在官(駐在武官)を務め、各国軍と協力して武装解除に取り組んだ。軍閥が支配する地域の部族社会で、欧米の理屈は通じない。部族長と飲み食いを重ね、信頼関係を築き、少しずつ武器を供出させるしかなかった。

 「複雑さ、奥深さを痛感する日々だった。軍事力を前面に出す米軍の高圧的なやり方では、うまくいかない。陸自にできるのは、活動する各国軍に燃料を届ける陸の補給活動。アフガン人から敵視されることも少ない」という。

 初の「戦地」派遣となった04年1月からのイラク復興支援活動。陸自隊員は迷彩服の右胸、左肩、背中、ヘルメットの4カ所に日の丸を付けた。深緑の服地に白と赤は鮮やかで、遠くからでも目立った。

 「我々は米軍とは違う、占領しに来たのではなく、復興支援に来たのだとアピールしたかった。隊員の安全確保には、それが大事だった」。派遣を決めた時の陸上幕僚長だった先崎一・防衛省顧問は振り返る。活動場所も、米軍の拠点バグダッドから遠く離れた南部サマワだった。

 イラク以後、陸自部隊の新たな海外派遣はない。一時、アフガン派遣も予測されたが、オバマ米新政権は日本に非軍事的役割を期待するとされ、陸自内にはほっとした空気さえある。

 今後も海外派遣は続く。目的や活動内容、戦略的な意味も変わる。そのなかで世界最強の米軍とどう付き合うか。米軍に対する陸自と海自の温度差は、日米同盟の質が、軍事面でも変わらざるを得ないことを示している。=つづく

毎日新聞 2009年5月14日 東京朝刊

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