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アメリカよ・新ニッポン論:第3部・平和の未来/2 核の傘依存、日本に試練

 ◇広がる先制不使用論

 オバマ米政権の発足以来、日本は核の傘を維持するよう執拗(しつよう)に念押しを重ねてきた。

 2月17日=クリントン国務長官訪日▽同24日=ワシントンでの日米首脳会談▽3月31日=オランダ・ハーグでの日米外相会談。4月5日のオバマ演説後は、同15日=麻生太郎首相の大統領あて親書▽同24日=日米首脳電話協議▽同27日=中曽根弘文外相の特別演説--という具合だ。例えば、ハーグでのやり取り。

 中曽根外相「前回は核抑止を含めた米国の日本への防衛コミットメント(約束)も確認されてよかった」

 クリントン長官「日本への防衛コミットメントはゆるぎない」

 同盟の重要性を確認するだけの慣行と比べ、明らかに異例で、不安の表れと言える。

 核の傘。核保有国が非核同盟国に、万が一の時は核で守ると約束する(核抑止を提供する)ことだが、定義そのものが冷戦構造を前提にしている。

 だが、オバマ演説が「最も差し迫った脅威」に挙げたのは、テロリストの核保有だ。米国の次期NATO(北大西洋条約機構)大使の有力候補とされるダールダー氏は「核政策を現状の脅威に見合ったものに変えなければならない」と指摘する。核大国の対決より核テロの脅威が高まる中、核の傘の重要性は相対的に減っている。

 むしろ国際論議で浮上するのは、核兵器国の先制不使用宣言だ。核攻撃を受けない限り核兵器を使わず、核兵器の目的は核抑止に限定するもので、核の傘を外さずに核兵器の役割を下げるという点でオバマ演説と符合する。

 90年代に核開発を断念したブラジルなど非核国の間で「米露英仏中が先制不使用を宣言すれば、それだけで核開発を考える国が減り、不拡散体制強化の第一歩となる」と支持が広がっている。

 問題は中国だ。すでに先制不使用を宣言しているが、現実には核兵器の近代化を進めている。核不拡散が専門の中国・復旦大の沈丁立教授は「仮に米国の核兵器の数が中国より少なくなっても、中国は先制不使用を約束する」と素っ気ない。先制不使用宣言は、軍縮に参加しない「言い訳」にもなり得る。

 日本は「検証しようがない先制不使用宣言に日本の安全保障は依存できない」(外務省軍備管理軍縮課)との立場だが、米国の核軍縮NGOの間では、オバマ政権の核戦略基本文書「核態勢見直し」報告の更新に盛りこまれるという期待も出ている。エバンズ元豪外相は日本に「本気で核廃絶を訴えるなら、最低限の合意事項として先制不使用は必要だ」と迫っている。核軍縮を主導したい日本は、下手をすると次の一歩を妨げる立場に追い込まれかねない。

 日本で核の傘という言葉が一般化したのは、64年10月に中国が核実験を行ってからだ。現在の北朝鮮と同様、国交もなかった隣国の核武装は衝撃だった。65年1月の日米首脳会談で、佐藤栄作首相はジョンソン大統領に核の傘の保証を求め、日本が核武装する可能性にも言及。今に続く「確認と保証」の構図はこの時に始まった。

 中国・清華大の楚樹龍教授(国際政治)は「中国は中米日で安全保障会議を開くべきだと提案しているが、日本は及び腰だ。既に中米はいろいろなレベルで戦略的対話を行っている。このままでは日本が取り残されることに気がつくべきだ」と警告する。

 麻生首相は4月29日、日中首脳会談で中国に核軍縮を求めたが、温家宝首相は「先制不使用を約束している」と返しただけだった。核の傘に象徴される対米依存が頼みの日本にとって、核軍縮の国際政治は試練の逆風となるかもしれない。=つづく

毎日新聞 2009年5月5日 東京朝刊

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