失職に伴い31日投開票された出直し阿久根市長選で、再選を果たした竹原信一氏(50)。職員の高給批判に的を絞り、市長に返り咲いた。1日に登庁し、44日間留守にした市長のイスに再び、座る。だが、市議会は「反竹原」が過半数を占めるなど、今後の市政運営も混迷が懸念される。
竹原氏の市長就任後、9件の議案否決や2度の不信任決議など、混迷を極めた阿久根市政。出直し市長選は、竹原氏が訴える「改革」とその手法の是非が最大の争点だった。
竹原氏は、「竹原派」市議や、市政改革を目指す政治団体・阿想会などが支援。失職直後からミニ集会を繰り返し、また、竹原氏自身がバイクでビラを1軒1軒配り歩くなど、徹底した草の根選挙を展開した。
田中氏は、反竹原派市議11人らが擁立し、地元県議や元市長らも支援。母校・阿久根農高同窓会や建設業者などが中心となり組織型選挙を展開したが、及ばなかった。
竹原氏当選の報が選挙事務所に届いたのは午後9時35分ごろ。集まった支持者約150人から拍手がわき起こると、事務所外にいた竹原氏は一瞬何が起きたのか、分からない様子。「当選だ」という歓喜の声で、ようやく理解した万歳三唱して再選を喜んだ。
竹原氏は「当選は皆さんのおかげです。皆さんの責任です。責任をとって下さい」と支持者に呼び掛け、会場は歓声に包まれた。【馬場茂、福岡静哉、川島紘一】
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◆阿久根市政・混迷の経過◆
【08年】
8月24日 市長選告示
30日 選挙期間中のブログ更新で、県警から警告を受けた竹原氏が記述を削除
31日 竹原氏が市長に初当選。前議長ら3人を破る
9月11日 竹原氏が初登庁
21日 議員定数を16から6に10削減する意向を表明
29日 議会が、副市長と教育委員の人事案に不同意
10月17日 議会が、議員定数削減案、市長月給半減案、手数料引き下げ案の3案を否決
11月 4日 竹原氏がブログ上で「市議会は解散すべきか」などとネット投票を呼び掛け
17日 議会が、市長の12月賞与全額カットの条例改正案を否決
教育委員人事案も不同意
12月 1日 市職員倫理条例施行規則を「改正」。関係業者との飲食、ゴルフを解禁し、条例を骨抜きとの批判も
9日 議会が、教育委員人事案を再度、不同意
竹原氏は不同意された人物を教育総務課長に採用。「教育長代理」に
17日 竹原氏が「議会は(市長)不信任案を出して可決し、解散してもらいたい」と議会答弁
【09年】
1月12日 竹原氏がブログで、「最も辞めてもらいたい議員」投票呼びかけ
22日 竹原氏が市長選期間中にブログ更新したのは公選法違反として県議、市議ら28人が県警阿久根署に刑事告発
23日 市議4人が市長不信任決議案を議長に提出
25日 竹原氏が、定数を16から12に削減する条例案を臨時議会に提案する意向を表明
2月 2日 副市長人事で議会が不同意とした人物を、竹原氏が課長級の幹部職員として採用
6日 市長不信任決議案を全会一致で可決
10日 竹原氏が議会を解散
20日 竹原氏が、市職員268人全員の給与を市のホームページと自身のブログで公表。14項目の手当も含め匿名で
3月15日 出直し市議選告示
竹原氏が、反市長派候補2人を取り上げた過去のニュース映像とブログをリンクし、「サイテイの連中」と記載。映像を使われたMBC(南日本放送)の抗議でリンクを外す
16日 告示日に新人4人の「名刺」を配った竹原市長に対し、市選管が口頭指導
22日 出直し市議選投開票。「反竹原派」が11人当選で過半数に。「竹原派」も上位5位を独占
29日 議会が初の市民対話集会を開催
4月 1日 竹原氏が職員10人を降格。うち1人は議長が任免権を持つ議会事務局職員で、「地方公務員法に抵触する恐れがある」との県の指摘を無視
7日 竹原氏が市職労に対し、給料の2~6%削減案を提示。組合側は「組合員の意見を聞く時間が必要」と反発
8日 田中勇一氏が出馬会見
17日 竹原氏失職。臨時議会で2度目の市長不信任が、賛成11反対5で可決される
竹原氏は出直し市長選への出馬を表明
議会開会前、市役所内各課に各課職員の給与総額を張り出す
20日 竹原氏が提案していた職員給与削減案を賛成多数で可決
反竹原派が議員提案した議員報酬10%削減案は全会一致で可決
5月11日 降格された職員のうち3人が市公平委員会に不服申し立て。公平委は9日後に受理
24日 出直し市長選告示。竹原、田中の2氏が出馬
31日 出直し市長選投開票
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◆竹原氏発言録◆
出直し市長選で争点の一つだったのが、竹原氏の政治スタイルだ。ブログを駆使し、広く世間の耳目を集め、「ブログ市長」との異名も。「規格外」とも言える過激な言動は、たびたび物議を醸した。市政を巡る主な発言を振り返った。
【08年】
◆「今の状況を何とかしてくれという市民の気持ちの反映。阿久根の転落を止めるスタートだ」
(8月31日、初当選の弁)
◆「議会というのは、アリバイ作りのインチキ。バカ丸出し」
(9月21日、市民懇談会)
◆「日本は、外交、防衛、金融の基本を外国に差し上げ、独立国としての体をなしていません」
(9月29日、所信表明演説)
◆「温暖化の原因は二酸化炭素ではなく、主に太陽の活動の影響。二酸化炭素問題はプロパガンダであり、産業にまでなっている」
(11月5日、知事と市長の意見交換会)
【09年】
◆「この際、議員の刷新が必要です。有権者の皆様には日当制と定数削減に向けた議員刷新へのご協力を」
(「広報あくね」1月号の年頭あいさつ)
◆「議会解散という6年越しの計画が達成できた」
(2月6日、不信任決議後、記者団に)
◆「経営という観点から市役所人件費の状態を見れば、無茶苦茶(むちゃくちゃ)だ」
(2月23日、市職員給与公開を受け、ブログで)
◆「処分ではなく、適材適所」
(4月1日、降格人事を記者団に聞かれ)
◆「市役所の人件費を市民のために配分し直して、皆が痛みや喜びを分かち合い、支え合う阿久根に変えるつもりです」
(「広報あくね」4月号の市長コラム)
◆「あと2年間あれば、劇的に変えられる。あの議会さえ片づけられれば」「市民が政治に興味を持ち、(市職員)給料などが目に見えてきた」
(4月17日、失職直後の記者会見で)
◆「(有権者の)皆さんが変われば、阿久根市が変わる。知っていることを増やし、変えるべきことは一緒に変えていく。そういう市にすることだけが大事だ」
(24日、告示後の「第一声」)
◆「これまでは改革です。これから革命を起こします」「下僕(げぼく)扱いされている市民が主権を取る事、これは革命です」
(「選挙運動用ビラ」で)
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竹原信一(たけはら・しんいち) 50 無前(2)
建設会社員[歴]航空自衛官▽市議▽脇本小PTA会長▽華の50歳組同小会長▽市長▽防衛大
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当 8,449 竹原信一 50 無前
7,887 田中勇一 56 無新
毎日新聞 2009年6月1日 地方版