教官紹介 |
高野 陽太郎
- 東京大学 大学院人文社会系研究科・文学部 教授
- 米国 Cornell 大学で学位(Ph.D.)を取得。
- Virginia 大学専任講師、早稲田大学専任講師を経て、現職。
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- 専門: 認知心理学・社会心理学。
- 写真: むさ苦しいヒゲ面なので公開は差し控えます。
最終更新日: 03/07/22
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- 研究の基本姿勢
- 研究の概要
- 研究テーマ
- 1) 思考
- a. 外国語副作用
- b. 言語相対性仮説(サピア・ウォーフ仮説)
- c. 推論
- d. 科学的研究法
- 2) 形態認識
- a. 鏡映反転
- b. イメージ回転
- 3) 社会的認知(日本人論批判)
- 4) 記憶
最終更新日: 03/06/08
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1. 研究の基本姿勢 |
◆ オリジナリティの重視
- 独自性の高い研究を目指してきました。
欧米の研究の後追い、たとえば、欧米の研究を下敷きにして、少しだけ変数を変えてみるというような研究は避けてきました。
欧米の研究の紹介に時間を費やすことも避けています。翻訳などの紹介の仕事には、もちろん、大きな意義があります。しかし、欧米の研究成果について、いくら博学になっても、それだけでは、学問の最前線を切り拓いていくことはできません。欧米の研究の紹介者が「一流の学者」と見なされる文科系学問の現状は、日本が文化輸入国の意識からまだ脱却しきれていないことの現れかもしれません。
国際シンポジウムの開催、欧米の著名な研究者の招聘などには時間や労力を使わないようにしています。独自のアイデアにもとづいた研究に努力を集中したいからです。
国際共同研究はおこなっていますが、欧米の研究者の下働きという形のものは避けています。自分自身が調べたいことについて独自に研究計画を立案し、興味を同じくする海外の研究者とのあいだで共同研究をおこなっています。
◆ 学際性の重視
- 専門の枠にとらわれず、目前の問題を検討するために必要な知識はすべて利用するというのが基本的な姿勢です。
学際的研究には不利な点が少なくありません。
- a)新しい分野での専門知識を得るには大変な時間と労力を要する。
- b)そのため、業績(論文数)を増やすことが難しくなる。
- c)新しい分野では、常に「素人のくせに...」という非難に直面する。
- d)思わぬ誤りを犯す危険性が高い。
- しかし、学問の垣根は人為的に設けられたものにすぎません。現実の世界は、学問分野を寄せ集めたモザイクではなく、有機的な総体なのですから、垣根にとらわれていては、現実を正しく理解することはできません。
◆ 理論性の重視
- 現実を理解するためには理論が必要です。単なる現象記述や直観的な理解で満足することなく、あくまでも理論的な説明を追究したいと考えています。
科学的研究にとっては、「なぜ?」という問が最も重要です。その問に「なぜならば...」と答えるのが理論的説明です。適切な理論的説明ができてはじめて、現実を理解することもできますし、また、現実に対して効果的な働きかけをすることもできるようになります。
思いつきの類が「理論」と呼ばれていることもありますが、理論には、現象を論理的に演繹するための明確な原理と、それにもとづく説明力とが必要です。
◆ 認識論の重視
- 認知心理学の研究者となることを選んだのは、認識論を直観的にではなく、実証的に研究したかったからでした。
認知心理学は、それ自体が実証的・科学的な認識論です。ですから、認知心理学の研究に携わっているというそのことだけでも、認識論を重視しているということにはなるのですが、それだけにとどまらず、認知心理学の研究方法についても、それを認識行為として捉え、つねに認識論的な観点から検討を続けています。
 
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2. 研究の概要 |
◆ 守備範囲
- 認知に関係のある問題すべてに興味をもっています。
これまでに行なってきた研究も、形態認識からはじまって、イメージ、注意、記憶、言語、思考、そして社会的認知にいたるまで、非常に広い範囲に渡っています。ただし、今のところは、初期知覚・動物学習・発達などの研究は守備範囲外です。
◆ ソフトウェアとしての認知
- 脳よりも、抽象的な認知プロセスの方に関心をもっています。
人間の本質は、脳というハードウェアそのものにではなく、その脳を働かせているソフトウェアの方にあると考えているからです。すでに一部の認知機能が半導体素子によって実現されていることからも、認知機能の本質は神経組織というハードウェアではなく、ソフトウェアの方にあることがわかります(ただし、ハードウェアの特性がソフトウェアの特性に対する制約条件になることは勿論です)。
◆ 問題解決型の研究
- これまでにおこなってきた研究の多くは、特定の問題を解決するというタイプのものでした。
たとえば、
- 「鏡に映ると左右が反対に見えるのは何故か?」
- 「イメージ回転が起こる場合と起こらない場合があるのは何故か?」
- 「日本人は思考力がアメリカ人より劣るという実験結果が出たのは何故か?」
- といった問題に取り組んできました。
論理的な曖昧さを排し、すべての実証的な事実と整合する説明をつくりあげるためには、努力を惜しまないように心がけてきました。
◆ 人間とは何か?
- 最近では、人間を全体として理解することに関心が向いてきました。
遺伝的に規定されている生物として人間を理解しようとする進化論的な観点。後天的に獲得される文化にもとづいて人間を理解しようとする文化論的な観点。両者をどう止揚すべきかを考えています。
ここ数年間、進化心理学とも、文化心理学とも論争をしてきました。その中で分かってきたことは、一見、両者は対極にあるように見えるものの、実際には、人間の固定的な性質を過大評価するという点では共通した傾向をもっているということでした。いずれも、状況に対応する人間の柔軟性を過小評価しているように思われます。認知的な負担を軽くするために、できるだけ単純な図式でものごとを理解しようとする認知のバイアスが、心理学者の思考にも影を落としているのかもしれません。しかし、人間がもつ高度の情報処理能力は、単純な図式では捉えきれない柔軟性を可能にしているのです。
現時点では、遺伝的・文化的な制約と柔軟性との関係を正確に理解することが興味の中心になっています。
 
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3. 研究テーマ |
1. 外国語副作用
- 慣れない外国語を使っている最中は、一時的に、思考力が低下した状態になります。これが外国語副作用(foreign language side effect)です。
私は、留学と仕事でアメリカ合衆国に5年間滞在しましたが、そのときの体験から、英語を使っている最中は、たんに英語を使うのが難しいというだけではなく、思考力も低下しているのではないかという可能性に思いあたりました。Neisser 教授の授業で学んでいた注意の理論がこの体験と結びつき、思考力の低下は注意の理論によって合理的に説明できることにも思いあたりました。
思考力の低下が実際に生じているのかどうかを調べるために、滞米中に二重課題の実験を始めました。言語を使用する言語課題と、言語をいっさい使用しない思考課題とを、被験者に同時におこなってもらうという実験です。この実験で、言語課題で使用する言語が外国語のときには、母語のときにくらべて、思考課題の方の成績が低下することが分かりました(図を参照)。思考課題では言語をいっさい使用していないのですから、この成績低下は、外国語がよく理解できなかったというような外国語の難しさを直接反映しているわけではありません。難しい外国語を使っているときには、そのしわ寄せで、思考力が低下する、すなわち、外国語副作用が生じるということを示していることになります。
また、外国語が母語と似ていないほど、外国語副作用は大きくなることも、日本語話者とドイツ語話者、あるいは、韓国語話者と英語話者を比較した同様の実験で実証しました。
これらの研究は、以下の論文で報告しています。
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- Takano, Y. & Noda, A. (1993)
- A temporary decline of thinking ability during foreign language processing. Journal of Cross-Cultural Psychology, 24, 445-462.
- Takano, Y. & Noda, A. (1995)
- Interlanguage dissimilarity enhances the decline of thinking ability during foreign language processing. Language Learning, 45, 657-681.
- 外国語副作用は、以下にあげる日本語の本の中でも簡単に紹介しています。
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- 高野陽太郎 (1994) 「思考の心理学」
- 伊藤正男他(編)『岩波講座認知科学8 思考』 岩波書店
- 高野陽太郎 (1995) 「言語と思考」
- 大津由紀雄(編)『認知心理学3 言語』 東京大学出版会
- 高野陽太郎 (2002) 「外国語を使うとき ― 思考力の一時的な低下」
- 海保博之・柏崎秀子(編)『日本語教育のための心理学』 新曜社
- また、大学英語教育学会の第39回大会では、外国語副作用に関するワークショップを開催しました(2000年11月 沖縄国際大学)。
外国語副作用に関する研究は、現在も続行中です。
2. 言語相対性仮説
- アメリカの心理言語学者ブルーム(Alfred H. Bloom)は、「日本人と中国人は、母語に欠陥があるせいで、アメリカ人をはじめとする欧米人にくらべて、高度の思考能力が劣っている」と主張しました。「使っている言語の性質が思考に影響する」という言語相対性仮説にもとづいた主張です。ブルームは、アメリカ人大学生と中国人・日本人大学生を比較する実験をおこない、この主張を裏づける結果を得ました。
私は、この実験に重大な手続きミスを発見し、その手続きミスのせいで、ブルームの実験では、関数についての知識量の違いが母語の違いと混同されていたことを実験的に立証しました。このことは、「日本人はアメリカ人より高度の思考能力が劣っている」とするブルームの主張には実証的な裏づけがないことを意味します。
この研究は、次の論文で報告しました。
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- Takano, Y. (1989)
- Methodological problems in cross-cultural studies of linguistic relativity. Cognition, 31, 141-162.
- 次の本の中でも簡単に紹介しています。
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- 高野陽太郎 (1995) 「言語と思考」
- 大津由紀雄(編)『認知心理学3 言語』 東京大学出版会
- Wason の4枚カード問題における推論について、「遺伝的なプログラムによって直接決定されている」と主張するコスミデス(L. Cosmides)の研究を検討し、コスミデス説では説明できない事実が存在することを実験的に示すことによって、遺伝説が確かな実証的基盤をもっていないことを明らかにしました。
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- 高野陽太郎・大久保街亜・石川淳・藤井大毅 (2001)
- 「推論能力は遺伝するか? ― Wason 選択課題における Cosmides 説の検討」. 認知科学,8, 287-300.
- この研究に対しては、進化心理学者から批判が寄せられ、それに反論をするという形で誌上討論をおこないました。この誌上討論では、進化心理学者の側も、コスミデス説をそのまま擁護することは諦め、私たちの実験や主張に対する批判を中心にして議論を展開しました。私たちの反論では、彼らの批判が文献の誤読や主張の誤解にもとづいたものであることを明らかにし、コスミデス説では説明がつかない私たちの実験結果の妥当性は覆されていないことを指摘しました。この誌上討論を通じて、推論の遺伝説は確固とした実証的基盤を欠いていることが再確認されたと考えています。
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- 平石界・長谷川寿一・長谷川真理子 (2002)
- 「Wason 選択課題への社会契約説および進化生物学的人間研究に関する大きな誤解 ― 高野ら (2001) へのコメント」 認知科学, 9, 580-585.
- 高野陽太郎・石川淳・大久保 (2002)
- 「特化機能説 vs. 汎用機能説 ― 平石・長谷川・長谷川論文への回答」 認知科学, 9, 586-591.
4. 科学的研究法
- 「科学的な知とは何か?」という問題も、長年、考えつづけてきた問題です。自分自身の研究の中で得た実践的な知識と科学哲学的・心理学的な知識とを組み合わせて、認識論的な観点から考察を進めてきました。
「干渉変数( = 剰余変数)」が独立変数・従属変数とならぶ重要性をもつことに気づき、この干渉変数という観点から、実証的研究のさまざまな問題を統一的に理解するという試みを続けてきました。たとえば、Karl Popper が提唱した反証可能性理論の誤り、「外部妥当性を必要としない研究がある」という Duglous Mook の主張の誤りなどは、干渉変数に関する認識を深めることによって、はっきりと理解することができます。
この分野での研究成果は、主に、心理学研究法を講ずる学部の授業に生かしてきましたが、『心理学研究法』(高野陽太郎・岡隆編 有斐閣 近刊)でも活用しています。
次の書物では、干渉変数という観点から、無作為配分(random assignment)の原理と効用、および限界についての詳しい考察をおこなっています。
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- 高野陽太郎 (2000) 「因果関係を推定する ― 無作為配分と統計的検定」
- 佐伯胖・松原望(編)『実践としての統計学』 東京大学出版会
- 大学院における「発想シミュレーション」のゼミも、科学的な知についての研究に立脚したものです。
 
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2) 形態認識
1. 鏡映反転
- 「なぜ鏡の中では左右が反対に見えるのか?」 ― この鏡映反転問題は、プラトンの昔から2千年以上にわたって議論の対象になってきました。にもかかわらず、驚くべきことに、この誰もが知っている身近な問題には未だに定説がないのです。
この問題が解けなかった理由は、誰もが「鏡映反転は単一の原理から生じる単一の現象だ」と思いこんでいたことでした。じつは、鏡映反転は単一の現象ではなく、3つの異なる原理の組み合わせから生み出される、3つの異なる現象の複合体なのです。それら3つの原理とそれらの組み合わせ方を特定することによって、鏡映反転に関連するすべての現象を矛盾なく統一的に説明することができます。
このホームページのトップページの写真は、鏡映反転に関連する現象の1つを示しています。鏡の中では、何もかもが左右反対になるわけではありません。壁に貼った「C」の文字は、たしかに左右が反対になっています。しかし、切り抜いた「F」は、鏡の中でも左右が反対になっていません。 鏡映反転に関するこの新しい説明は、以下の書物と論文の中で紹介しています。
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- 高野陽太郎 (1997)
- 岩波科学ライブラリー55 『鏡の中のミステリ ― 左右逆転の謎に挑む』 岩波書店.
- Takano, Y. (1998)
- Why does a mirror image look left-right reversed?: A hypothesis of multiple processes. Psychonomic Bulletin & Review, 5, 37-55.
- この説明(多重プロセス理論)に対しては、ニュージーランドの心理学者と日本の物理学者から批判が寄せられていますが、それらの批判はいずれも誤りです。彼ら自身も独自の理論を提案していますが、その理論では合理的に説明できない現象が幾つもあります。その点を立証する実験データを既に得ていますので、近いうちに論文として発表する予定です。データの一部は、分子科学研究所主催の招待講演「なぜ鏡に映ると左右が反対に見えるのか?」(2001年11月 第37回分子科学フォーラム)でも紹介しました。日本認知心理学会第1回大会シンポジウム「鏡映反転 ― 鏡の中で左右が反対に見えるのは何故か?」(2003年6月29日)では、各種の鏡像をビデオ・カメラとプロジェクタを介してスクリーンに映し出し、実験データも併せて紹介することにより、鏡映反転に関する実際の認知が彼らの理論の予測とは一致せず、多重プロセス理論の予測と一致することを示しました。
 
2. イメージ回転
- 異なる方向を向いている2つの形態が同じものかどうかを判断するとき、一方のイメージを心の中で回転するというメンタル・ローテーション(mental rotation)が起こることがあります。
このメンタル・ローテーションが起こるのはどのような場合で、それは何故か、という問題に取り組み、すべての実験データを整合的に説明できる理論(情報タイプ理論)を構築しました。この理論では、イメージ研究の枠内で論じられていた現象を形態認識の問題として捉え直すことによって、さまざまな疑問を解決することに成功しました。
この研究は、以下のような論文や書物の中で紹介しています。
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- Takano, Y. (1989)
- Perception of rotated forms: A theory of information types. Cognitive Psychology, 21, 1-59.
- Takano, Y. (1993)
- Recognition of forms rotated in depth: A test of the information type theory. Japanese Psychological Research, 35, 204-214. (日本心理学会研究奨励賞受賞論文)
- Takano, Y. & Okubo, M. (2002)
- Mental rotation. In Lynn Nadel (Ed.), Encyclopedia of Cognitive Science. London: Macmillan.
- 高野陽太郎 (1987)
- 認知科学選書11『傾いた図形の謎』 東京大学出版会
- 高野陽太郎 (1992) 「形の中の方向」
- 波多野誼余夫他(編) 『認知科学ハンドブック』 共立出版
- イメージの問題に関しては、認識論的な分析をおこなって、イメージ論争が哲学で言う擬似問題であることを指摘した論文もあります。
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- 高野陽太郎 (1981)
- 「心像の概念的考察」 心理学評論, 24, 66-84.
 
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3) 社会的認知
- 社会的認知の分野では、文化(異文化および自文化)の捉え方に認知がどう関わっているかを検討しています。特に、思考のバイアスがもたらす文化認識の歪みが研究の中心テーマになっています。
「歪み」を解明するためには、事実の正確な認識が前提になります。そのため、この研究では、心理学のみならず、文化人類学、社会学、言語学などの研究成果も大いに活用しています。特に、従来、社会心理学とは関連の薄かった歴史学との結びつきを強めているところは、やや異色かもしれません。
集団主義・個人主義
- いわゆる「日本人論」では、「日本人は集団主義、アメリカ人は個人主義」であると信じられてきました。
しかし、アメリカで過ごした5年間の体験から、私はこの通説に疑問を感じるようになりました。
さいわい、集団主義・個人主義については、80年代から国際比較研究が盛んにおこなわれるようになっていたので、日米を直接比較した研究が幾つもありました。それらの研究を組織的に整理してみた結果、質問紙研究も実験室研究も、この通説を全く支持していないことを発見しました。
全部で17件見つかった研究のうち、通説どおり「日本人の方が集団主義的である」という結果を報告している研究は1件のみで、11件の研究は日米間にはっきりとした差を見出しておらず、残る5件は、通説とは正反対に、「アメリカ人の方が集団主義的である」ことを示すデータを掲載していました(図を参照)。通説を支持していた唯一の研究も、因子分析の結果を誤って解釈したために、通説を支持するという誤った結論に到達していたことが判明しました。
実証データと通説とのこの食い違いについては、認知心理学、社会心理学、性格心理学、そして歴史学の知見を総合することによって、筋の通った説明が可能になることが分かりました。その説明は、主に、以下の4点に立脚したものです。
第1に、「日本人の集団主義」も「アメリカ人の個人主義」も、日本とアメリカがおかれていた歴史的状況によって説明が可能であり、国民性の違いを想定する必要はないこと。
第2に、「性格の一貫性論争」(別称「人か状況か論争」)のなかで明らかになったように、固定的な「性格」が過大評価されがちであるものの、実際には、人間の行動・意識は状況の変化に対応してかなり柔軟に変化しうるものであること。
第3に、社会心理学で明らかにされた「対応バイアス」によって、人間は状況の力を過小評価し、性格を過大評価する強い傾向を持っていること。
第4に、認知心理学で明らかにされた確証バイアス等によって、欧米人の誤った日本認識が強化された可能性が強いこと。
こうした知見を総合して考えてみると、「日本人は集団主義、アメリカ人は個人主義」という通説は、それぞれの歴史的状況に対応した日本人とアメリカ人の行動を、認知のバイアスの作用によって、誤って「国民性」の現れと解釈し、それが更に別の認知バイアスによって強化された結果として、成立したものだと考えることができます。 こう考えれば、通説が実証データによって支持されないという事実は無理なく理解することができるのです。
この研究を報告した論文は、当初、文化心理学者によって「素人の大風呂敷」と酷評され、雑誌への掲載を拒否されてしまいました。しかし、後に、中立の編集者・査読者に評価されて、別の雑誌に掲載され、続いて英語で発表した論文には国際的な反響がありました。雑誌の論文審査のあり方を考えさせられるエピソードです。
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- 高野陽太郎・纓坂英子 (1997)
- 「“日本人の集団主義”と“アメリカ人の個人主義”― 通説の再検討」 心理学研究, 68, 312-327.
- 高野陽太郎 (1998)
- 「『国民性』の危険性」 現代のエスプリ, 372, 125-131.
- 高野陽太郎・纓坂英子 (1998)
- 「日本人はアメリカ人より集団主義的か? ― データに支持されない通説」 対人行動学研究,16, 2-4.
- Takano, Y. & Osaka, E. (1999)
- An unsupported common view: Comparing Japan and the U.S. on individualism/collectivism. Asian Journal of Social Psychology, 2, 311-341. (アジア社会心理学会/日本グループダイナミクス学会 三隅賞受賞論文)
- この研究は、文化心理学者による批判を受け、それに反論するという形で誌上討論をおこないました。
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- 北山忍 (1999)
- 「文化と心についての実りあるダイアローグに向けて ― 高野・纓坂 (1997) 論文の意義と問題」 認知科学, 6, 106-114.
- 高野陽太郎 (1999)
- 「集団主義論争をめぐって ― 北山氏による批判の問題点」 認知科学, 6, 115-124.
- この誌上討論では、通説が立脚している実証的基盤の脆さが改めて浮き彫りになりました。
- この研究も続行中です。
 
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- 私は、記憶の研究から認知心理学に入ったのですが、最近は、記憶の分野では、大学院生との共同研究が主体になっています。
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- 高野陽太郎(編著) (1995)
- 『認知心理学2 記憶』. 東京大学出版会.
- Takano, Y. (1978)
- A dissimilarity analysis of organization in multi-trial cued retrieval. Japanese Psychological Research, 1978, 20, 148-153.
- 竹中浩・高野陽太郎 (1997)
- 「意図的な人工文法学習における単純回帰ネットワーク・モデルの検討」. 認知科学, 5(1), 65-81.
- 今井久登・油谷実紀・高野陽太郎 (1999)
- 「回転および歪曲変換が知覚プライミングに及ぼす影響」. 心理学研究, 70, 177-185.
- Okubo, M. & Takano, Y. (2001)
- Absence of perceptual segmentation in image generation by normals. Japanese Psychological Research, 43, 121-129.
- 今井久登・高野陽太郎 (2002)
- 誤導情報効果における元情報の存否 ― 元情報呈示と類似した再認およびプライミング課題を用いての検討」 心理学研究, 72(6), 490-497.
 
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