第1回 おっぱいバレー 水野宗徳

タイトルのあくの強さから発行当初、書店からの返品続出!
その逆風を押し返し、今では平積みをする書店多数!さらに映画化も
決定!一躍話題の本となった「おっぱいバレー」ができるまでのお話!!



タイトル・表紙のレシピ


「おっぱい先生」か「おっぱいバレー」か
…結局、おっぱいなら、バレーの方で

—まず、この前代未聞の『おっぱいバレー』というタイトルのことから伺いたいのですが…。

水野「あぁ、やっぱりそこから入りますか(笑)。ネット書店のamazon.comのレビューを読んでいても、『タイトルに騙された』とか『おっぱいバレーっていうタイトルが良い』とか、タイトルへのコメントがとにかく多くてですね…作者としては、小説の中身をもっと言ってよ! という気持ちがあったりします(笑)」

—いやー、それはしょうがないんじゃないですか。インパクトありますから。私も本屋でこのタイトルを見て、思わず手に取ってしまった一人です。

水野「それではご期待に応えて…『おっぱいバレー』っていうのは、もともと仮のタイトルだったんですね。出版社に提出した企画書で『おっぱいバレー(仮題)』となっていたものが、そのまま残ったんです。小説という分野では僕も新人作家なので、かっこいいタイトルを付けても流されちゃうし、こういう変化球もありかな、と最終的には『おっぱいバレー』に決めました」

—他のタイトルは一切考えなかったんですか。

水野「出版社の担当の方から『おっぱい先生っていうのもありじゃないかな』という意見も出たんですけど、それに対して『結局同じおっぱいならおっぱいバレーでいいじゃないですか』と返答しました(笑)」

—最終的には、どちらもおっぱいから脱却しなかった、と(笑)。このタイトルにしたことで目立つ一方、マイナスの面もあったんじゃないですか。

水野「良いか、悪いか、で言うなら、悪い方に働いたみたいですよ。このタイトルだから即返品の本屋さんも結構あったみたいですし。新刊の文芸書コーナーに店員さんが本を並べている時に、タイトルを見て『あれ、これはうち向きの本じゃないな』とすぐに送り返してきたんでしょうね。まぁ、それは責められないです。表紙の写真もとんでもないですから」

—とんでもないですね(笑)。この表紙のイメージはどなたがが考えたんでんすか。

水野「僕です(笑)。一番初めの段階で、胸にバレーボールを入れた男の子たちが並んでいる表紙ってイメージはもうありました。他の作家さんがどうなのか分かりませんけど、自分はとにかく初めに映像が浮かぶんです。実際の創作でもその見えたものを文章にしていくことが多いですね」


モチーフのレシピ


控え室の周りの雰囲気とか、準備中の表情
とか、TVカメラが捉えない部分を観察。

—「おっぱいバレー」は実話を基にした青春小説ということですが、その実話はご自身の実体験だったんですか。

水野「いや、違います、僕はバドミントン部だったので(笑)。実際に男子バレーボール部の顧問をしている女性の先生から聞いた話です。以前、僕がラジオの構成作家をしていた頃に、番組を通して先生と電話でお話する機会があったんですね。その先生が部員たちから『先生がおっぱい見せてくれたら、オレたち頑張るよ』と言われて話の流れで、『優勝したら見せてあげるよ』と答えちゃったそうなんです。そしたら、やる気のなかった部員が俄然張り切り出して、練習試合なんかでも勝ちだした。先生は焦ってくる…まぁ、実際はおっぱいは見せなくて、最終的には『本気で見せてくれると思ってないよ』とキャプテンの子から言われたそうですけど…この話が基になっています」

—ということは、水野さんが聞いた実話というのはエピソードだけなんですね。それにしては、バレーの練習や試合シーンにずいぶんリアリティがあります。この部分は取材されたんですか。

水野「バレーボールに関しては、かなり取材もしましたし、資料も読みましたね。その資料の一部がこれなんですけど(と、資料の詰まった大きなケースから中身を取り出す)」

—見せてもらっていいですか(と、その中の一冊を手に取る)。「日本高校バレー人間模様」って…こういうマニアックな本、一般の書店で手に入るんですか(笑)。

水野「それは、本屋さんでは入手できないかもしれないですね。バレーボール大会の会場で販売されていたんです」

—あ、バレーボールの試合会場にも、足を運ばれていたんですね。

水野「代々木体育館の高校バレーの大会なんかにたまに行きましたね。でも、試合はTVでも見られるじゃないですか。せっかく会場に来ているので、TVカメラが捉えない控え室の周りの雰囲気とか、準備中の表情とか、そういった部分を観察してましたね」

—このビデオもまたマニアックな内容ですね(と、資料の中からビデオテープを手に取る)。

水野「それはですね、素晴らしいビデオで…北海道の田舎に8人だけの女子バレー部があるんですよ。部員が8人だと普通は試合形式の練習もできないわけですけど、それを3対3でやる方法とか。あと、少人数だとサーブ練習をしても、ボール拾いが大変ですよね。体育館の緞帳に向かって打つと、ボールがそのまま自分たちの元に戻ってくるから効率的だとか。他にもいろんな練習方法が解説されています。そういうことを積み重ねてこのチームは3年連続、北海道インターハイに出場したそうです」

—バレーボール部の監督に就任しても、いいくらいの研究をされていますね。冗談抜きで。他にバレー関係で取材されたことってありますか。

水野「僕の友達にバレーの北海道選抜チームだったやつがいるんですけど、そいつと一緒に、どうやったらわずか半年の短期間で優勝できるチームに急成長できるか、というシミューレションを徹底的にしましたね。だから、強くなっていく過程については、何を突っ込まれても大丈夫、答えられます。そう思っていると、誰も突っ込んでくれなかったりするわけですけど(笑)」


構成のレシピ


メモ用紙に書いた3行で、おっぱいバレー
の設計図は、ほぼ出来ている

—小説の創作を「映像で浮かんだシーンを文章化していく」と先程おっしゃっていましたが、ということは、水野さんが普段されているTVの放送作家や脚本の仕事に近い感覚で小説を執筆されたんでしょうか。

水野「そうですね。表現の方法は多少違っても、感覚はあまり変わらなかったんじゃないでしょうか。だから、文章の上手さというよりも、すぐに風景が浮かぶように書いています。読者の頭の中にパッと映像が浮かんで、どんどん展開していく。登場人物もどんどん動かしていく。これは完全に映像的な考え方ですよね。芸術性より、娯楽性を追求していくというか…」

—確かに、「おっぱいバレー」は、実際に読んでいても飽きる所がないですね。全体の構成バランスがとても良いので、中だるみもなく集中して読めました。どうしたら水野さんのように上手に構成を組み立てられるのでしょうか。

水野「まず始めに小さなメモ用紙に3行だけこう書いたんです。『子供が本気で動く要素は3つ。憧れた時。楽しい時。大切なものを守る時。大人の都合で子供は動かない、それを大人は忘れているんじゃないか』。この3行だけで、おっぱいバレーの設計図は、ほぼ出来ているんですよ。『憧れというのはおっぱい』『楽しいというのはバレー』『大切なものを守るというのは先生のために戦うこと』。これで、ざっくりの3部構成。僕にとって後の執筆というのは、肉づけをしていく作業なんですね」

—構成をまずがっちり決めて、肉づけとしての執筆がある…他の作家さんが、登場人物が勝手に動き出してストーリーが進むみたいなことを言う時がありますが、水野さんの場合、それは全くないわけですね。

水野「キャラクターが動いていく…そういうのはすごく憧れますけど、キャラクターの動きや絡みに関しても、僕はかなり綿密に構成に基づいて書いてますね。ページ数の制約もありますし。まぁ、あと現実問題、僕が『キャラが動き出すまで待つ』とか言ったら、ふざけんなって話なんで。出版社から他の作家に頼みます! と言われかねない(笑)」


人物・風景描写のレシピ


舞台となる街の求人や住宅に
関する情報誌まで読み込む

—水野さんにとって、「執筆は肉づけでしかない」というお話が出ましたが、何でしょう…言葉だけだと機械的に聞こえてしまいかねないですが、決してそうではないですね。登場人物の一人ひとりの心情の深い部分まで表現されている。この点でも取材はされているんですか。

水野「んー、確かに、そういう声はたくさんいただきますね。特に教師の気持ちが何でこんなに分かるの? と現役の先生からよく言われます。これには理由があってですね…」

—もったいぶらずに教えてください(笑)。

水野「僕は現役教師をテーマにしたTV番組の企画・構成を担当しているんです。その仕事を通して、先生たちが体験している板挟み状態や理不尽なことに対してリサーチはできていたんですね。あと、先生たちと飲みにもいきましたしね。先生たちに限らず、取材で酒を一緒に飲むというのはよくするんです。その分野に詳しい人を捕まえて飲む…これに勝る取材方法はないですね」

—人物の描写だけでなく、風景の描写なんかも最小限の表現なのに、読んでいるとその場の空気が体感できる。これも取材によるものなんですか。

水野「静岡のとある街を舞台に設定したんですけど、そこには3回に分けて計3日間、取材に行っています。街のあちこちの写真を随分撮りましたね。街の入り口の看板・スポーツ用品店・神社・電車…。写真だけでなく、その街にある求人や住宅に関する情報誌も読んだりする。時給がいくら、家賃がいくら、そういう生活レベルが分からないと、何が高くて何が安いかという生活者としての感覚が掴めませんから。その他にも膨大な量の参考資料を読みこんでいます。でも僕の場合、小説に現れてこないものがあまりにも多いので、悲しいところではありますけど」

—TVの構成作家というのは、すごく忙しい仕事というイメージがあります。よくここまで取材や執筆を行う時間がありましたね。

水野「TV関係の皆さんには職業柄『忙しい、忙しい』って言っているんですけど、言うほどじゃない(笑)。まぁ、ちょっとハードな会社員くらいの忙しさでしょうか』

—取材と執筆にかけた期間ってどれくらいですか。

水野「んー、どれくらいですかね。取材が2〜3ヵ月、執筆は約1ヵ月というところでしょうか」

—書き下ろしの執筆に1ヵ月はどう考えても早いですよね。執筆スピードが早いから、通常の仕事と小説の創作をこなせたんですね。

水野「まぁ、『もっと粘って書けよ』という意見もあるかもしれませんけど。僕の場合、時間かけても、そんなに変わらないですから。そうは言っても、読み直すと、あちこち直したい箇所を見つけてしまいますね。それはTVの仕事も同じ。見返すと直したくなってしまう。だから、自分が手がけたTV番組も必要最小限しか見ないようになっちゃいますね」


著者メッセージ


—今後、映画化も決定しているということで、ますます話題になること間違いなしの『おっぱいバレー』ですが、これから読者になる方へのメッセージをお願いします。

水野「本嫌いな人でも、2時間、3時間でさくっと読める本になっています…」

—あ、それだけですか。もう一声お願いします。

水野「笑って、泣いて、懐かしさも味わえる。そういう本だと思いますね…」

—…インタビューでは饒舌だった水野さんも、ご自身の本のPRは恥ずかしいようですので、この部分は同席していただいている、出版社リンダパブリッシャーズの新保さんにお願いしましょう。

新保「私の中では、『おっぱいバレー』が何年か後に青春のバイブルになると信じています! 今のうちに読んでおけよ!! って感じですね」

—挑戦的なコメントありがとうございます。続編の「おっぱいバレー・リターンズ」も刊行予定ということで、楽しみにしています。

Page Top