特集/コラム
羽田空港エリアに国立規模の航空博物館設立構想
大田区の地域開発案との連携も
羽田空港の沖合展開事業および再拡張事業によって生じる約53ヘクタールの「跡地」に、国立規模の「航空宇宙科学館」(航空博物館)の設立を目指す動きがある。
航空・宇宙産業の関係者・ジャーナリスト・有志らで組織する「羽田航空宇宙科学館推進会議(HASM)」による構想で、同会議は1988年の発足以来21年間にわたり実現に向けた活動に取り組んでいる。現在の会員数は171名(2009年4月現在の顧問・個人・法人会員合計)。
「航空遺産を後世に伝え、未来に夢をはぐくむ」施設に
同会議事務局長の大河義一さんは「飛行機は素晴らしい芸術品に匹敵する民族の遺産と考えるが、現状では多くの貴重な航空遺産が散逸している。YS-11量産1号機のように、保存されていてもスペースがないとの理由で一般公開されていないものもある。航空博物館の建設でこれらを後世に伝え、未来の人たちに夢をはぐくんでもらいたい」と設立の趣旨を話す。設立の暁には、航空宇宙関連の「資料収集・展示」「研究調査」「史実・資料の継承」「人材の交流」などを実現したいという。
同会議は博物館の設置場所を「羽田」とする理由として、同地の「歴史・知名度・発展性」、「有利な地理的条件・高い集客力」、「(開発可能な)有用な土地」、「優位な輸送手段と空港施設の活用」、「唯一性(都内初の本格的な航空博物館)」、「(全国を対象にできる)教育環境」を挙げている。
かつて空港内の航空機ハンガーに耐震補強を施し博物館の建物とすることを計画したが、その後の社会情勢の変化により計画を白紙に戻さざるを得なかった経緯があるそうだ。現在は、同空港の沖合展開事業および再拡張事業によって生じる「跡地」が候補地として有望とし、これまでに同地の開発を検討する都や大田区の議会に計画案を伴った陳情を行っている。
そのような状況の下、大田区が昨年10月、同跡地(第1ゾーン)の利用に関する基本的な考えとして「羽田空港跡地利用OTA基本プラン」を発表。内容にある「導入する施設および機能」に、「本物の航空機に囲まれた立地特性を生かした航空関連の博物館」として「航空産業博物館」が盛り込まれた。構想実現に向けての進展だが、プランの具体化には課題も多く、区も「今後導入する機能や施設について幅広く検討し、事業主体・手法・財源スキームについても検討する」としている。今後の計画の推移に注目したいところだ。
HASMの現在と今後の活動
同会議は2002年より、毎年9月の「空の日」の記念イベントの一環として羽田空港で「ミニ航空宇宙科学館」を開催している。いわば「期間限定のミニスケールの航空博物館」で、航空関連の貴重な資料や情報の展示や研究成果などを披露し、一般に向けて活動の趣旨を広める機会としている。今年も9月に開催を予定する。
また来年10月の羽田再拡張・国際化に向けては、「現在はまだ具体的な計画はないが、同年の『日本の航空100年記念』の事業への参加については、本年度中に準備とテーマを検討していく」(大河事務局長)そうだ。
「羽田経済新聞」は昨年9月、「もしも国立レベルの航空博物館が羽田にできたら訪れるか」という問いの簡易アンケート(総回答数339)を実施した。回答者の39.23%が「ぜひ訪れてみたい」と、24.19%が「行く機会はないと思う」と答える結果となり、一般の博物館設立への興味が示された。今後環境が整えば同会議の博物館設立構想は、羽田空港国際化に伴う地域全体の開発プランと連動して進展する可能性もある。
羽田に航空宇宙科学館設立構想-「空の日」イベントにミニ博物館出展(羽田経済新聞)
「羽田空港跡地利用OTAプラン」
航空博物館の設立の候補地にも挙げられる羽田空港再拡張後の跡地(第1ゾーン)の利用について、大田区は前述の「羽田空港跡地利用OTA基本プラン」で、「創造」「交流」「共生」を基本キーワードとして街作りの実現を図るとしている。導入施設の機能として「産業支援・交流機能」「文化・交流機能」「多目的広場・緑地機能」を挙げ、具体的なイメージとして「航空産業博物館」以外にも「産学連携施設」「ものづくり産業情報発信拠点」「日本のアート・デザイン・コンテンツを紹介する施設」「流域サイクリング拠点ターミナル」「公園・緑地」などが考えられるという。 「跡地」の開発が地域の街作りとして総合的に進めば、新国際線地区の建設などと共に現在の空港エリアの姿が大きく変わっていくだろう。
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「羽田航空宇宙科学館推進会議 (HASM)」事務局
〒153-0063 東京都目黒区目黒4-14-42 大河義一方 (TEL 03-3712-4227) ホームページ: http://www.asahi-net.or.jp/~te7y-kbys/HASM/
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・博物館イメージ図 © 羽田航空宇宙科学館推進会議
・跡地利用プランイメージ図 © 大田区
・機体工場の写真は本文にある航空機ハンガーとは関係ありません。
この特集記事は羽田経済新聞が編集協力した月刊エアライン6月号(4月30日発売・イカロス出版)の連載「月刊羽田経済新聞」と同じ内容です。
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