増加する「偽装ラブホテル」 元議員秘書も関与、巨大産業のうまみとは
5月31日13時27分配信 産経新聞
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神戸市内の偽装ラブホテルに強制捜査へ入る兵庫県警の捜査員ら=平成20年11月10日(写真:産経新聞) |
[フォト] 小学校敷地から6mしか離れていない場所に建てられたラブホテル
■届け出はあくまで「旅館」だが…
5月11日の神戸地裁。端正な顔立ちのスーツ姿の男が被告人席に座った。
偽装ラブホテルを経営していたとして風営法違反(禁止地域営業)罪で起訴された矢野嘉宏被告(42)だ。裁判官からの問いに、「間違いありません」とゆっくりと答え、起訴事実を認めた。
検察側の冒頭陳述によると、矢部被告は平成11年5月に、神戸市北区のホテル「スノーマンズ」の所有権を取得。同年6月末に改装して30部屋中11部屋にSMプレー用の「手かせ」「足かせ」を設置し、ラブホテルとして営業を開始した。
しかし、自治体への同ホテルの登録はあくまで「旅館」。検察側は、市役所や警察の調査に際して、SM器具のある部屋は見せないよう従業員らに指示していたと指摘。20年2月には兵庫県警から風営法に抵触するとの指摘を受けたが、目に見えた改善はなされなかったという。
結局、矢部被告は昨年10〜11月、神戸市垂水区の住宅地域で、ラブホテル「レッドスノーマンズ」を運営したとして逮捕、起訴された。
「集客力が大きく、もうかった」
兵庫県警の調べに対し、矢野被告は偽装ラブホテル経営の“うまみ”を口にした。摘発までのホテルの売り上げは月に約1200万円で、純利益は約330万円に達したという。
■気鋭の若手経営者…議員秘書から「華麗なる転身」
矢部被告は同志社大学を卒業、知人の会社を手伝うなどした後、衆院議員(当時)の議員秘書として勤務した。「若手の地元秘書として働いていたが、うまみに気づいて、ラブホテル経営に転じたようだ」(捜査関係者)
その後、経営の世界で頭角を現し、複数の「ラブホテル」を運営する若手経営者として名をはせた。
業界誌「季刊レジャーホテル」(19年2月号)には、矢部被告のインタビューが写真付きで掲載されている。
法廷同様にすました面持ちの矢部被告は、ラブホテル業界について「社会的認知度がまだ低い」としたうえで、「違法行為があるのではないかと疑いの目で見られる。金融機関からの差別やマスコミの偏見もあり、不当と思える行政の指導も散見できる」と、取り巻く環境を鋭く批判。
さらには、「規制がさらに強化されたり、経営者が逮捕されたりするような事件もまた起きてくる」とも危惧(きぐ)していた。
その“予見”は皮肉にも、自らが逮捕される形で現実となった。
県警は、矢部被告がホテル経営者らでつくる業界団体の代表を務めていたことを重視、偽装ラブホテル経営を悪質と判断して逮捕に踏み切ったという。
■「1日3〜4回転」のおいしいビジネス
ラブホテルは風営法上、「店舗型性風俗特殊営業」とみなされ、都道府県の公安委員会への届け出が必要になる。風営法の政令によると、ラブホテルの“構成要件”は以下3点のいずれかが室内にあることだ。
(1)動力により回転するベッド
(2)横臥している人を映すための鏡
(3)性器を模した物品の自動販売機
また、風営法ではラブホテル営業の「禁止区域」として、学校や図書館、保育園など児童福祉施設の半径200メートル以内での営業を禁じている。これに加え、各地方自治体も条例で厳しく営業範囲を規制しており、一般的に新規のラブホテル建設は容易ではないとされる。
ただ、裏を返せば「禁止区域」は人を呼び込みやすい場所でもあり、経営者とっては好立地。そこで「旅館などとして届け出て、ラブホテルに改装することが全国的に横行している」(兵庫県警幹部)というのだ。
今回、兵庫県警は「レッドスノーマンズ」が規制区域内にある上、室内に「大きな鏡」が設置されていたことに着目。届け出は「旅館」ながら実態はラブホテルと認定し、摘発に着手した。
経営の魅力はやはり「集客力」らしい。
「通常のビジネスホテルなら宿泊客が1日に1組あれば御の字だが、繁華街のラブホテルなら3〜4回転が期待できる。ビジネスホテルを運営するよりも遙かに効率がよく、だからこそ、法に抵触してでも営業したいという人間が絶えない」
違法風俗などの捜査経験が長い警視庁捜査員は、こう指摘する。
都市部では店舗型風俗店の摘発が進んだ一方で、派遣型風俗店が伸びているが、ラブホテルが“プレールーム”代わりに利用されることも多い。不況でも一定の需要は見込め、「モラルよりカネ」が横行しやすい業界といえそうなのだ。
エコノミストの門倉貴史氏は著書「世界の下半身経済が儲かる理由」(アスペクト)で、ラブホテルの市場規模を年間「約4兆7000億円」と算出している。「住宅リフォーム」などに匹敵する大型市場になっているという。
■小学校から6メートルに突如出現、住民運動に発展するケースも
偽装ラブホテルは全国的に増加している。
警察庁によると、全国の警察が把握している偽装ラブホの営業所数(昨年4月10日現在)は3593件。最も多いのは東京都の485件で、以下は神奈川県、埼玉県、兵庫県、大阪府の順だ。都市部での増加が顕著なことがうかがえる。
昨年5月には、大阪市西区で、小学校と道路を挟んだ6メートル先に「偽装ラブホテル」が開業。近隣の住民が苦情を訴え、大阪市はあわてて学校から110メートル以内でのラブホテル建設を禁止する条例を制定した。
首都圏最大級のラブホテル街・円山町を抱える東京都渋谷区でも「実数を把握してはいないが、少なからずあるようだ」(同区安全対策課)という。
立件に至るケースも増えた。
埼玉県警は同5月、「旅館」として届け出ながら実際はラブホテルを営業していたとして、風営法違反の疑いで、埼玉県深谷市の男性経営者=当時(61)=を書類送検。県警によると、室内にはアダルトグッズの販売機を設置され、「食堂」として申請されていた場所はカップル用の待合室に改装されていた。
事態を重くみた警察庁は今年3月、新たな規制の在り方を話し合う有識者らの研究会を開くなど対応に躍起。25年ぶりに風営法のラブホテルの構成要件を見直す方針という。
「カップルが使うだけならまだいいが、派遣型風俗店の舞台にもなりうるラブホテルが住宅街や学校のそばにできるのは問題。規制は見直す時期にきているといえる」(警視庁捜査員)
■「不況に強いビジネス」…ファンドも登場
そうした中、「4兆7000億円」の市場規模に着目したビジネスも登場している。
イニシア・スター証券(東京)は昨年11月、個人投資家向けに3年満期の「ネオホープ」を販売した。ずばり、資金でラブホテルを運用するファンドだ。
1口10万円で投資を募り、中古のラブホテルを取得。新装オープンさせ、営業利益を投資家に分配する仕組み。ホテル経営には実績が豊富な管理会社があたり、沿道での効率的な看板設置などノウハウを駆使する。
同証券の広報担当者は「レジャーホテル(ラブホテル)は人件費も低く、高い営業利益率が可能になる。不景気の時ほど、多くのカップルは安価に押さえようとレジャーホテルを利用するので、景気の影響を受けにくいファンドといえる」と説明。発売以来、売れ行きは好調という。
ファンド誕生は、かつての「連れ込み宿」が様変わりしていることを象徴的に示しているが、なお反社会的なイメージは根強い。
神戸事件の矢部被告はインタビューでこうも語っていた。「社会的に認知される業態にならないといけない」。
そのためには、いかに業界全体で順法意識を高めるか−がカギになりそうだ。
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最終更新:5月31日13時43分
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