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社説:視点 危機後の邦銀 草食系のよさ見せる時=論説委員・福本容子

 昨秋以降、世界を震撼(しんかん)させた米国発金融危機は、ひところの緊張が和らいできた。それに伴い活発化しているのが“危機後”の金融像を探る動きだ。

 新しい規制や国際ルールづくりは途上だが、分かってきたのは、金融業が危機前よりシンプルで地味な方向に向かうということである。金融機関は極端なリスクを取ることを制限され、べらぼうなウォール街の年俸も当面は影をひそめるだろう。

 例えて言えば、サバンナで好き放題、獲物を捕りまくってきた米欧の“肉食系金融”たちが、つめや牙の先端を除かれ、行動範囲を柵で制限され、体に発信器を付けられて、当局の追跡を受けるといったイメージだ。

 肉食系金融が大きくつまずき信用を失った今は、本来草食系の邦銀が独自のモデルで勝負に出るまたとない機会になりうるはずである。ところが実際は、米欧の金融機関が先行し、うまくいかず、今まさに見直し中のモデルを、こぞって取り入れようとしているかに見えてならない。代表的なのが投資銀行業務であり、個人向けから法人向けまで、銀行業から証券業まで何でも手がける金融のデパート化である。どのように収益に結びつけるのか、顧客の役に立つのか、よく分からない。

 危機後の金融は一般的に利幅が小さくなると見られている。そこで確実に利益を上げていくには、徹底したコスト削減が必要条件だ。国内の3メガ金融グループはいずれも大手銀行の統合によって生まれたが、しがらみなどから、いまだに機能や人材の重複を抱える。ぜい肉を落とすと同時に、海外も含め広い世界からの起用をもっと進めた方が組織の活力が高まる。

 取引先などの株を大量に保有する邦銀特有の慣習も早急に解消すべきである。株価の動き次第で業績が揺さぶられるようでは、将来性のある技術や人材を抱えた企業に資金を提供する力もそがれ、話にならない。

 国際業務では、アジアを中心とした新興市場が成長の舞台となりそうだが、米欧金融機関の後を追い、はやりの分野にとりあえず参加、ではいけない。

 今回の危機を教訓として、消費者や企業の経済活動を後押しするという金融本来の役目に、自信を持って回帰すべきだ。肉食系が元気を取り戻し、派手なビジネスを始めたとしても、サルまねの誘惑に負けない勇気が要る。何が得意かを見極め、地味でも確実な成長を続け、何より顧客から感謝される金融業を志してほしい。草食系でも十分魅力ある金融があるということを示す時である。

毎日新聞 2009年6月1日 東京朝刊

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