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スリランカのラジャパクサ大統領が内戦の勝利を宣言した。政府軍が反政府武装勢力のタミル・イーラム解放の虎(LTTE)を北部の海岸部に追いつめ、軍事制圧を果たしたのだ。
だが、素直には喜べない。多くの住民が戦闘で犠牲になり、戦闘終結後も人道危機は続いているからだ。多数派のシンハラ人と人口の2割弱のタミル人との間の和解はたやすいことではなく、内戦で荒れ果てた国土の復興も長い道のりだろう。
分離独立を唱えて自爆テロを繰り返したLTTEは終局の直前、数万人の住民を「盾」にし、逃げる人々の背に弾丸を浴びせた。
最悪の事態は避けられたものの、避難民キャンプにいる30万人近いタミル人の多くが病気に苦しみ、家族と生き別れになっている。食糧や医薬品などの人道支援を急がねばならない。
気になるのは土壇場での戦闘の実態と「人間の盾」の真相だ。国際人権NGOは重火器を使った政府軍の攻撃手法を批判している。
捕虜になった元兵士の処遇も心配だ。スリランカ政府は、赤十字国際委員会にすべての収容施設への立ち入りを認めるべきだ。戦闘の実態を調べ、人権状況を点検する中立的な国際調査団を、政府自身が組織してはどうか。
インドネシアのアチェ、ルワンダ、北アイルランドなど、かつて内戦をくぐり抜けた国や地域は戦闘終結後、どこも苦労しながら、平和構築や和解に取り組んでいる。
ラジャパクサ大統領も、民族和解による和平の必要性を唱えている。だが多くのタミル人はまだ不信と不安を抱いているに違いない。
タミル人差別は日常生活に厳然として残っている。欧米に逃れた在外タミル人はLTTEを支援してきた。和平へのかじ取りを誤れば武装闘争が再燃する恐れは消えていない。
戦闘で破壊された北部や東部の復興を急ぎ、避難民を帰還させる。そのうえで、タミル人にどの程度権限を委譲するのかなど、真摯(しんし)な政治対話を始めねばならないが、政府が大胆な譲歩をしなければ、対話は進むまい。
欧米を中心とした国際社会には、政府の態度を見極めようという空気が強い。政府に誠実な行動が見られなければ、支援の声はしぼみかねない。
日本は最大の援助国であり、かつて復興開発会議を共催したノルウェー、欧州連合、米国の中で、スリランカ政府と一番太いパイプを保っている。
そんな日本には、スリランカの民族和解を背中から後押しする責任がある。戦闘地の地雷除去や元兵士の社会復帰など支援できる分野は多い。
日本政府は、明石康・政府代表を近く現地に派遣する方針だ。平和構築の先導役を務めてもらいたい。
市販の大衆薬の副作用の危険度に応じた新しい販売ルールが、今日から実施される。
焦点となっていたインターネットや電話、郵便による通信販売規制をめぐる対立が解けぬまま、販売業者から「規制は行き過ぎ。厚生労働省の暴走だ」と裁判まで起こされる中でのスタートだ。混乱を残したままの見切り発車になってしまったことは残念だ。
新たな販売方式は、効き目が強く副作用の危険度が高い薬について、薬剤師による説明を義務づける。一方、風邪薬や検査薬など、それほどの危険度がない薬は、都道府県の試験に合格した登録販売者がいれば、スーパーやコンビニでも手軽に買えるようにする。
ただ、通販ではこれらの薬についても販売を禁止。認められるのはビタミン剤や整腸薬などごく一部だ。
対面販売でないと消費者に十分な説明が出来ないから、というのが厚生労働省の説明だが、「店頭に本人が来るとは限らないではないか」「コンビニでも買える薬が通販というだけで禁止というのは納得出来ない」といった疑問、不満の声はおさまっていない。
通販事業者や利用者からの反発を受けて舛添厚労相は急きょ、通販事業者らも入れた検討会を作ったが、結局、意見を集約できないまま時間切れになった。実施間際になって、漢方薬など特定の薬の継続利用者や離島の人らに2年間に限り通販を認める経過措置を示したが、肝心の問題は先送りされたままだ。こんな状態では、新しい制度は定着しにくいだろう。
例えば、通信販売でも電話で薬剤師がじっくり相談に乗ってくれて店頭より丁寧な説明が受けられることもあるだろう。インターネット上の方が薬についての詳しい情報を手に入れられるという声もある。経過措置により、通販が利用できる人とできない人が出ることに、「公平性を欠く」と感じる人も少なからずいるのではないか。
そもそも、今回の改正薬事法が求めているのは、薬の正しい使用のために必要な情報の提供だ。対面販売か通信販売かは単なる手段の違いであって、大事なことは必要な情報をきちんと消費者に伝えることではないか、という問いかけに、厚労省は正面から向き合うべきだろう。
もちろん、ネット通販に課題があるのも事実だ。薬は「毒にもなれば薬にもなる」。安く、手軽に買えればいいというものではない。一定のルールが必要なことは言うまでもない。
薬の大量購入や未成年者による乱用を防ぐ手立てをどうするか。必要な時に相談が受けられるような態勢をどう整備するか。厚労省は改めて関係者と協議する場を作り、そうした通信販売のルール作りの議論も続けてほしい。
知恵を出し合う余地はあるはずだ。