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執筆者

本田透Monday〜Friday

(Toru,HONDA)

名前

作家。『イマジン秘蹟』『円卓生徒会シリーズ』『ボクの紫苑』シリーズなど好評発表中。『喪男(モダン)の哲学史』等評論でも執筆活動を展開する。

ニコニコなネ申Tuesday

(nikonikoGOD)

名前

動画配信サービス「ニコニコ動画」で活躍する人間たちに目を向けて、彼ら(彼女ら)のリアルな考え方、生き方に目を向けていく。

堀田純司Wednesday

(Junji,HOTTA)

名前

大阪府出身。ノンフィクションライター。キャラクタービジネスやロボットテクノロジーなどの分野を主に取材する。著書に『萌え萌えジャパン』など。

北尾トロThursday

(Toro.Kitao)

名前

福岡県生まれのライター。著書に『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『男の隠れ 家を持ってみた』など多数。現在「ダ・ヴィンチ」「週刊文春」などで連載中。

カラスヤサトシFriday

(Satoshi,KARASUYA)

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大阪府出身。「月刊アフタヌーン」等で作者自らを主人公にした4コマ漫画を連載。カラスヤサトシの奇行は単行本『カラスヤサトシ』『カラスヤサトシ2』でたっぷりどうぞ。

NAOH [講師]Sunday

(NAOH)

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関西発、ファンキーサックスプレイヤー。ライブハウスやクラブシーン、テレビ・ラジオ・WEBコマーシャル、また番組司会や執筆等で幅広く活躍中。日曜枠のサックス講座講師として、BBNに華を添える。

記事

「混迷する日本。政治家BL同人界から政局を斬る!」

今週から更新を開始したザ・ビッグバチュラーズニュースの、火曜日担当はライター・宮坂琢磨!! 想い(妄想)は現実に到達できるのか?
(文中、敬称略)

 どうやら世界は混迷しているらしい。筆者やその友人(※1)が、ひたすらオンラインゲームにいそしみ、英雄になろうとしている内に、あるいは、日課となったアイドルBLOGを巡回している内に、さらにあるいは、とあるライトノベルに登場するツンデレ、メガネ、巨乳、メイド、皇女の中で、誰が一番かわいいかの論争が殴りあいにまで発展している内に、世界は混迷の度合いを増していたらしい。
参議院選でボロ負けした自民党が民主党と大連立政権を組もうとし、民主党党首・小沢一郎は党に持ち帰るものの、意見をまとめきれず反発され、その責任をとるために辞任を発表。しかし、その2日後には慰留を表明。
こんなアホらしく、いやいや目まぐるしく移り変わる政治情勢に追いつくのは大変だ。
「オレみたいに自宅警備員として、専門(マンガ、ゲーム、アニメ)にうつつを抜かしていた身には政治なんてよくわからない……」と思うかもしれないが、そんなことはない。スペースノイドとアースノイドの複雑な対立の歴史を把握している人間が、現実の政治を理解できないはずがない。
オタクが培(つちか)ってきた視点というものはきっと現実にも応用できる、汎用性の高い方法論である。「ザ・ビッグバチュラーズニュース 火曜日」で筆者はそれを証明しようと思う。


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「“女性向けナマモノ政治家同人誌”から、明日の政局を占う」
果たしてBL(※2)脳で政治を読み解くことはできるのだろうか?
できる。できるのだ!

四谷シモーヌさんの著作の数々
四谷シモーヌさんの著作の数々

  みなさんは、同人誌という言葉を聞いたことがあると思う。ひと言で説明するなら、同好の士が集まって作成する趣味の冊子のことで、国語の授業で習う『アララギ』や『白樺(しらかば)』といったオリジナル文芸誌がそのはしりだが、今ではその意味はスライドし、個人が発行する小説、マンガ全般を表す言葉になった。ジャンルも、オリジナルは勿論(もちろん)、アニメ・マンガなどを元にした二次創作、アイドルや野球選手など、現実に存在する人々を扱ったナマモノなど幅広い。男性向け同人誌ではエロを、女性向け同人誌では男性の同性愛を扱うのが、現在の主流だ。
今回紹介する“女性向けナマモノ政治家同人誌”は、現実の政治家を主人公に、彼らの愛憎が描かれる。若い総理大臣と、彼に長年仕える秘書官の関係はどのようなものなのか? TVの討論番組で野党議員に向けた、怒りとも寂しさとも取れる視線の理由は何か? 野党議員が首相を執拗(しつよう)に攻め立てる本当の原因は? そこでは、愛をキーワードに、政策や理念とは異なる、情念の政治が確かに描かれている。
 人と人との関係は合理性だけで動いているわけではなく、情念にも突き動かされているが、それは政治の世界でも同様だ。“女性向けナマモノ政治家同人作家”は、TVや週刊誌では見落とされている政治家同士の機微を見極め、そこから大いなる妄想の世界に飛んでいく。いわば政治家の情念を見抜く専門家ともいえる“女性向けナマモノ政治家同人作家”に今後の政局を伺(うかが)った。
橋本×小沢
橋本×小沢

 今回話を伺ったのはこのジャンルで多くの作品を発表する四谷シモーヌ(※3)氏だ。四谷シモーヌ氏は、BLジャンルのマンガや小説を商業誌で発表しており、“女性向けナマモノ政治家同人作家”ジャンルに関しては草分けとも言える作家だ。
 それまでは『機動戦士ガンダム』などのパロディを主体とした同人誌を書いていた四谷シモーヌ氏が“政治家ナマモノ”ジャンルで初めての同人誌、小沢一郎を主人公にした『小沢改造計画』(※4)を書いたのは1994年。そのきっかけとなったのが、1993年の小沢一郎自民党離党劇だという。
「最年少総理大臣候補と呼ばれた小沢一郎が自民党を飛び出したんですよ。一体そこに、どんなドラマがあったのかと興味を持つじゃないですか」
このことで、小沢一郎に興味を持ち始めた氏は小沢一郎の著書『日本改造計画』を皮切りに、小沢一郎の情報を調べ始めた。
「小沢一郎って顔が怖くて、陰湿、豪腕、わがままっていわれているけど、言っていること自体はまともだと思ったんです。他の政治家は、みんなの意見を足して平均化したようなことしか言わない、中途半端なイメージがあったけど、小沢一郎にはハッキリとした意見を言いのける強さがある。そんな小沢がたまに見せる無垢(むく)な笑顔にキュンとするんです」
そして氏は、小沢一郎のライバルであった故・橋本龍太郎に注目した。
「小沢一郎と橋本龍太郎の議員としての歩みは良く似ているんです。殆(ほとん)ど同じタイミングで国会議員になって、同じ田中角栄派だけど、いつも年の若い小沢一郎が一歩リードしている。だから、橋本龍太郎は小沢一郎が自民党からいなくなって嬉しいだろうな。これが橋本の陰謀だったら面白いなと思ったんです。さらに、それが愛憎による陰謀だったら面白すぎるって感じて、一気に妄想が膨らんだんです。『じじい転がし』と呼ばれた小沢一郎は、角栄、竹下、中曽根を籠絡(ろうらく)し、“魔性の男”として自民党を席巻していたけれど、本当に好きだった橋本龍太郎からは嫌われ、自民党から飛び出してしまったというシナリオが頭に浮かびました」
その後も氏は“魔性の男”=小沢一郎を軸としたとき、政治がどのように動いていくのか、BLの視点で政界を見続け、小沢一郎の魔力を確信していく。

細川元首相はただの操り人形ではなかった!
細川元首相はただの操り人形ではなかった!

「細川内閣ができたときも妄想が爆発しましたね。小沢一郎が当選1年目の細川護熙(もりひろ)を総理大臣にしたじゃないですか。ああ、やっぱり、体を使って裏工作したんだなって思いました。『そんなことありえない』って理性じゃわかってるんだけど、『籠絡したのね、魔性の男なのね』ってどんどん妄想が膨らむんです。小沢一郎にまつわる事件は、体を使って籠絡したんじゃないかって思わせるほど、ありえない人事が、ホント数え切れないくらいある」
四谷シモーヌ氏は、細やかな人間関係の機微を感じ取り、そこから妄想を膨らませて“愛憎”と“肉欲”の世界を同人誌に描いていく。このとき重要となるのが誰が主人公で、誰がライバルなのか。誰が“受け” (※5)で“攻め” (※6)なのかだ。
「私は、基本的に女の子って“受け”に感情移入すると思っています。『わー、この政治家好き、何を考えてるんだろう』と思ったとき、その政治家を“受け”にして、誰か周囲の男の人に愛されていることにすると、自分を投影した“受け”を通して、人間関係がすべて解りやすくなるんです」
四谷シモーヌ氏は自身が好きな政治家、小沢一郎を“受け”にし、その“受け”を中心にどのように政界が展開するかを観察している。それは政策、理念といった、表向きの信頼・対立ではなく、好き嫌いの情念の人間関係まで見越すことができるのだ。
その視点から、大連立構想などでゆれる政界の今後について伺ってみた。

受けの小泉は様々な人間に愛されている
受けの小泉は様々な人間に愛されている

「キーパーソンは鳩山由紀夫ですね! スタンフォード大学を卒業して、何の不自由もないはずなのに、政界に乗り込んできて、弟よりも当選回数(弟10回、兄7回)が少ない。なんか、けなげに頑張っていますよね。生まれのよさを含めて“王子”って呼びたくなります。小沢一郎の民主党慰留を後押ししたのも彼だといわれてますし。意外と誰かを支えるのに向いてたみたい。王子だけど内助の功みたいな(笑)。福田と小沢は上手くいきそうに見えたんですが、結局小沢プリンセスは飛び出していまいましたね。私の理想としては、小沢プリンセスと鳩山王子の仲が成就して、民主の単独過半数! 野獣の王国のような自民党は野党になる。これで、めでたしめでたし!なんてことを考えながら次の衆院選を楽しみにしています」

「“女性向けナマモノ政治家同人誌”から、明日の政局を占う」。いかがだったであろうか。あなたもこの“受け”“攻め”の視点で政治を見つめてはどうだろう。TVや週刊誌からとはまた違う、新しい姿が立ち現れるであろう、きっと。

※1 当然独身で彼女はいない
※2 ボーイズ・ラブの意。もとは少年同士の、性行為を含む耽美(たんび)な恋愛を表現する作品を表していたが、近年では嗜好(しこう)の幅も広がり、オヤジが登場することもある。
※3 初めて商業誌で書いた作品が、総選挙に出る男を主人公にした作品という、筋金入りの政界好き。近著『永田町で逢いましょう』でもノンキャリアの若者と、元同級生で総理大臣秘書官男の熱い愛が描かれている。
※4 四谷シモーヌ氏はそれ以降『橋本改造計画』(橋本×小沢本)、『小泉改造計画』(飯島×小泉本)を発表している。最新作は2006年に『』(プーチン×シュレーダー)本。
※5 挿(さ)される方
※6 挿す方
「混迷する日本。政治家BL同人界から政局を斬る!」 おわり

ザ・ビッグバチュラーズニュース
次回の更新は水曜、『自分でやってみる映画紹介シリーズ』
第1回 「300 スリーハンドレッド」をお楽しみに!