花巻の福祉施設入所者が遠野病院に入院…職員が無償支援

「早く良くなってね」。桐の里から入院した高齢者たちに声を掛ける佐々木さん=5月19日、遠野市の県立遠野病院

 岩手県医療局が4月に踏み切った地域診療センター無床化の影響をカバーしようと、花巻市大迫町の福祉施設が奮闘している。県立遠野病院(遠野市)に入院せざるを得なくなった入所者の身の回りの世話に、職員が片道約30キロの道のりを通い続ける。「頻繁に通えない家族の負担を減らしたい」との思いが、介護報酬もない無償活動の支えになっている。

<4人見舞い世話> 
 「具合はどうですか」。佐々木一広さん(50)は病室に入ると、ベッドのお年寄りの手を取り、優しく声を掛ける。

 佐々木さんは花巻市大迫町の介護老人保健施設「桐の里」の主任生活相談員。4月から同僚2人と交代で週に3回、遠野病院を訪れている。

 見舞うのは施設から入院した70〜90代の4人。大迫のほか盛岡市にしか身寄りがいない人もいる。洗濯物交換やおむつの補充、病状確認など家族代わりを果たしている。

 遠野病院までは車で45分もかかるが、「家族のため、最大限の協力をしたい」。佐々木さんの表情には命と向き合う使命感がにじむ。

<はしご外された> 
 福祉の現場は無床化で一変した。これまでは入所者の病状が悪化しても、車で2分の大迫地域診療センターが受け入れてくれた。その後ろ盾がなくなった。医療局は家族の見舞い用に無料タクシーの運行を決めたが、家族は仕事などで頻繁に通えないのが現実だ。

 入院した入所者は施設の手を離れるのが一般的だ。「あとは家族に任せる」と知らぬふりもできたが、桐の里は「身寄りのない人が入院する可能性もある」などと無償活動を決断。2人だった身の回りを世話する担当職員を1人増やし、病院までの交通費も身銭を切ることにした。

 「家族の負担増を見過ごせなかった。遠野病院が患者受け入れに全面協力してくれていることも大きい」と園長の佐藤忠正さん(59)。

 「後ろ盾を失った福祉施設としては『医療局にはしごを外された』との思いもあるが、できる限り踏ん張る」とも語る。

 「大変ありがたい」と家族から感謝の声が届く桐の里。一方で、無床化によるもう一つの課題が浮上してきている。

<あふれる待機者> 
 長期と短期で計66床の施設は満杯だったが、4月以降、入所希望者が相次ぎ、待機者が約110人に達した。

 大迫診療センターは無床化に伴い、夜間診療も廃止した。高齢者を抱える家族らが「いざ」という時の事態を不安視し、施設を頼りにする傾向が強まったという。

 花巻市は民間移管も視野に、診療センターの空き病床を医療、福祉施設として活用する検討を始めた。ただ「採算重視の民間をあてにできるのか」と、実現性や効果を危ぶむ声も地元にはある。

 市健康子ども部の佐藤格部長は「課題や住民の意向を共有したい」と言うが、猶予はない。

 「福祉と介護を支える地域医療という受け皿機能が後退する中で、住民の間に在宅介護に対する意欲が下がっている」。無床化のしわ寄せが広がる現場で、桐の里園長の佐藤さんがつくため息は深い。


2009年06月01日月曜日

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