●導入拡大 全国に200カ所
自分の感情をコントロールできずに怒りを暴発させ、「キレて」しまう子どもが増えている。キレない子どもをどう育てるか。相手に自分の気持ちを伝え、問題を解決する力を育てる、米国生まれの「セカンドステップ」というプログラムが国内の幼稚園や保育園、小学校などで広がっている。都内の実践現場を訪ねた。 (東京報道部・塚崎謙太郎)
東京都世田谷区の静かな住宅街にある代田幼稚園で、年中、年長の幼児を対象にした週1回のレッスンが始まった。ふだんは10組程度の親子が参加するが、風邪の流行でこの日は3組だった。
講師の先生が掲げた1枚の写真には、砂場で遊ぶ2人の子どもと、少し離れた場所から2人を見つめる子ども(ルイスくん)が写っている。
「さあ、ルイスくんは何ができるかな?」。問いかけられた子どもたちが「仲間に入れてっていう」「だまって帰る」「砂をかける」「一緒にあそぼっていう」と意見を出し、先生や母親も「2人のそばで遊ぶ」などの意見を追加し、ホワイトボードには8つの意見が並んだ。
![出し合った意見を実行したらどうなるかを、○や△で答える子どもたち=東京・世田谷の幼稚園](/contents/005/114/322.mime4)
出し合った意見を実行したらどうなるかを、○や△で答える子どもたち=東京・世田谷の幼稚園
意見に対して、先生は批評や評価を一切しない。質より量を優先し、問題の解決法を積み上げ、解決法が1つだけではないことを、子ども自身に考えてもらうのが狙いだ。次に、それぞれの意見を実行した場合、(1)安全か(2)どんな気持ちか(3)フェア(公平)か(4)うまくいきそうか-の4点について「○・△・×」で検討する。約30分のレッスンはここまで。次回はどの解決策を選ぶかを、みんなで考える。年間28回のレッスンを通して、コミュニケーションの力を育てていく。
長男と通う母親は「自然に身に着くことかもしれないけれど、対処方法を学んでおけば、いつか役立つかもしれないから。被害者にも加害者にもなってほしくないから」と受講の動機を話す。ほかの保護者からは「自分を押し通すばかりでなく、引くことも覚えた」「親子で顔を見て話す時間が増えた」という声も寄せられており、子どもだけでなく、親も一緒にコミュニケーション力を学ぶ場となっている。
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セカンドステップは約20年前、米国・シアトルで開発され、世界17カ国で使われている。子供が暴力の加害者にならないため、他者との関係を円滑に進める4-8歳向けのプログラムだ。日本では2001年に設立されたNPO法人「日本こどものための委員会」(東京)が指導員の研修を実施している。現在、1750人の指導者が全国約200カ所で実践しており、児童養護施設での導入例も増えている。翻訳された教材には、さまざまな国の子どもが登場する。
大きな特徴は「たたいちゃだめ」と何かを禁止するしつけではなく、怒りや悔しさという感情を認めた上で、数を数えたり深呼吸したりして気持ちを落ち着けて、自分の気持ちを相手に伝えるという具体的手法を学ばせる点だ。受講者と未受講者を比べたところ、受講した子どもの攻撃性が減少したという科学的データも得られている。
そこで東京都品川区教委は、全国で初めて小学校のカリキュラムにセカンドステップを本格導入した。現在は30校、来年度から区内全38校で実施する。第4日野小で1年生を教える橋摩(きよ)巳(み)教諭(31)は「年齢とともに身に着ければいいスキルだけど、通り過ぎてしまう子もいるはず。算数の公式みたいなもので、内面に意識付けしていれば、いつか役立つときがくる」と話す。実際に、子どもが相手に気持ちを伝え、順番を守ることでトラブルを解決する姿も生まれているという。
セカンドステップの教材を翻訳した同NPOの渡辺紀久子理事は「これが特効薬ということではないけれど、続けることで少しずつ変わっていく子どもの姿を見てきました。もっと広げていきたい」と話している。
▽日本こどものための委員会=03(5329)1461、ホームページはhttp://www.cfc-j.org
=2008/12/07付 西日本新聞朝刊=