2009年問題についてのセミナーで福岡労働局の説明に耳を傾ける派遣先企業の人事担当者=福岡市博多区
「僕、来年2月で丸3年ですけど、どうなりますか」
福岡県内の家電メーカー工場で働く遠山祐輔さん(35)はこの秋、派遣会社に問い合わせてみた。「ああ、調べておきます」と言われたが、今も返事がない。「気になるけど、何度も聞くとクビになりそうで…。死刑宣告を受けたようなあの感覚は本当に嫌なんです」。大卒後に4年勤めた建設会社をリストラされ、この10年間は派遣会社に登録し、職場を転々としてきた。十数カ所目のここが最も長い勤め先だ。
「2月に直接雇用に切り替えてもらえれば、それが一番うれしい。いいかげん安定したい」と語る。月の手取りは約15万円で実家暮らし。「いつかは小さくても一戸建てを買いたい」という夢は果てしなく遠い。
派遣業界には今、「2009年問題」という言葉が飛び交っている。
話は06年の偽装請負問題にさかのぼる。この年、キヤノンなどの工場で、作業を請け負った業者が現場で指示せず、実質的に労働者供給のみを担っていたことが発覚。これを受けて、請負社員から派遣社員に切り替えられた大量の労働者が来年、労働者派遣法が定めた派遣期間の上限である3年(26の専門職を除く)を迎えるのだ。遠山さんもその1人である。
2009年問題による混乱を警戒する厚生労働省は、業界に直接雇用にするか、請負社員にするか、どちらかの対応を求めている。しかし、派遣のニーズは依然高い。
「派遣先による直接雇用は、このご時世で難しい。請負は現場に指揮命令者を新たに置くなど、環境を整えるのが大変です。うちのような小さい会社はこうするしかない」と話すのは、福岡県内のある派遣会社の社長。「こうする」の仕組みは、厚労省指針の解釈で可能になるとされる。
〈同じ業務では、派遣終了と次の派遣開始の間が3カ月を超えない場合、雇用は継続しているとみなす〉という指針を、一部の派遣会社や派遣先企業は〈3カ月空ければ、派遣を続けられる〉と読み取り、これを「クーリング期間」と名付けて活用する。
この社長の派遣会社では、3年の期限が迫っていた派遣社員約50人に3カ月間の休暇を取らせたり、アルバイトしてもらったりした後、再び同じ職場に派遣した。
大分キヤノン(大分県国東市)で働く大津慎一郎さん(28)は6月、自分の身分が、いつの間にか派遣から請負に変わっていることに気付いた。ラインの班長だった派遣会社のスタッフが、突然「請負責任者」という腕章を着け始めたからだ。
大津さんは05年に派遣として工場に入ったが、その後、請負に変わった。偽装請負騒動の後に派遣に戻り、そして再び請負に。「ずっと同じ派遣会社ですが、身分の変更を知らされたことは一度もない」。仕事内容も給与体系も一貫して変わっていない。
この冬、工場内のラインは日に日に減り、人も閑散としてきた。自分にも同僚にも「派遣切り」の兆候が迫ってきているが、誰もその話題には触れようとしない。「僕らの身分なんて、大企業のいいようになるだけですから」。同じ工場で働く請負社員が労働組合を結成したというニュースも、どこか遠い話に聞こえるという。
=2008/12/21付 西日本新聞朝刊=