事務系の女性派遣社員の間で飛び交う俗説がある。いわく〈派遣の定年は35歳〉。
「あなた、5歳、さば読まない?」。事務職の仕事を探していた福岡県在住の小杉慶子さん(44)に、派遣会社のスタッフから電話がかかってきた。「そうしないと派遣先が見つからない」という。「受け付け業務じゃない。事務よ」と断ったら、3カ月間、1社も紹介が来なかった。
「女性の派遣は年齢が上がるにつれ、求人が減るし、過酷になる」と小杉さんはつくづく思う。家計の足しに、と24歳でデータ入力などの事務系の派遣を始めた。初めての職場は時給1600円。しかし、職場を移るごとに待遇は悪化していった。社長の犬の散歩やトイレ掃除まで頼まれたこともある。10カ所目のスーパー事務所は「時給1000円、毎日1-2時間のサービス残業付き」。“さば読み”を求められたのは昨年、11カ所目を探していたときだった。
厚生労働省の07年調査では、登録型派遣社員の8割は女性。家計補助を目的に「パートより時給が良く、柔軟な働き方ができる」派遣を選択してきた主婦も多い。
夕方、田辺さんは派遣先での仕事を終え、保育園から2人の子どもを連れ帰る
「私にはぴったりの働き方。1日4時間、平日限定。有休もちゃんと取れるしね」と語る同県在住、田辺翔子さん(33)もその1人だ。
田辺さんは正社員時代、残業が月に100時間に上り、体調を崩して8年前から派遣に転向した。会社勤めの夫の帰宅は遅く、田辺さんが午後5時に保育園に2人の子どもを迎えに行く。時給は1100円。「年収120万円でぎりぎり夫の扶養内。中途半端に稼いでも、税金で引かれてしまうだけだから、これで満足」と割り切っている。
これまでに4回職場が変わり、うち2回は出産による退職。派遣会社に育休・産休を求めたが、認めてもらえなかった。勤務先に妊娠を告げると、妊娠8カ月に満了を迎えるように契約期間を短縮され、無職になった。「就労証明がないと保育園に入れなかったり、途中で退園しなきゃいけなくなる。そうすると新しい仕事も探せない。悪循環に陥らないか、心配でした」
2005年の育児休業法改正で、派遣社員も育休の申請ができるようになった。しかし、1年以上雇用契約が続き、かつ出産1年後も雇用が継続される見込みが必要といった条件があり、「派遣会社がなかなか育休を認めたがらない傾向がある」(福岡労働局)。女性の派遣社員にとって、産休・育休取得のハードルは極めて高い。
派遣歴20年の小杉さんは今春、時給850円でデータ入力のパートを始めた。不景気で夫の月収は約10万円減り、住宅ローンの支払いも厳しくなっているからだ。時給が減った分、働く時間は増えたが、「3カ月ごとに契約更新、なんてことないから気楽です」と小杉さんは語る。
派遣歴8年、「現状で満足」という田辺さんが気になるのは〈35歳定年説〉。「あと2年。今度、契約解除されたら、次がなかなか見つからないかも…」。安定した暮らしの中にも、かすかな不安は消えない。 (文中仮名)
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=2008/12/18付 西日本新聞朝刊=