「派遣会社は命の恩人」。福岡市の外資系保険会社に勤める大久保亮太さん(31)は、ためらうことなく言い切る。小高い丘の上の住宅街に、妻と2人の子どもと暮らす。「3年前まで想像もできなかった生活です」
超就職氷河期に大学を卒業した。25歳で福岡市に移り、友人宅に居候しながら、日雇い派遣で引っ越し作業を始めた。1回の報酬は約7000円。繁忙期と閑散期で月収は4万‐20万円と大きく振れ、長期的な生活設計ができなかった。「作業中も、派遣会社に『あした仕事ありますか』って電話してました」。昼間に一般家庭の転居、深夜は事務所移転の仕事を引き受けたこともある。
友人が転居した後、2月の寒空の下、通勤に使う軽自動車に1カ月間寝泊まりした。「朝、起きたら雪が積もっていて、悲しくなりましたよ。毎日生きるのに必死で、就職活動しようと思う余裕もなかった」。日雇い派遣で食いつなぐ生活は2年続いた。「派遣会社がなかったら今の僕、いませんよ。家がない人にも仕事を回してくれるとこ、ほかにあります?」
引っ越し、倉庫業務、イベント設営、販売員…。1999年の派遣対象業務の原則自由化で、30日以下の短い契約で働く日雇い派遣が急増した。厚生労働省の昨年の調査では、1日に約5万3000人が働いている。
日雇い派遣では1カ月の平均就業日数14日に対し、平均月収が13万3000円。ワーキングプアの温床になっているとの見方がある。毎日のように職場が変わる日雇い派遣では、派遣会社や派遣先企業ともに法令順守の意識が希薄になりがちという指摘も根強い。事実、グッドウィルなど日雇い派遣大手による二重派遣や労災隠し、不透明な賃金天引きなどが相次いで発覚した。
こうした一連の流れを受け、通訳など専門性の高い18業務以外への日雇い派遣を禁止する労働者派遣法改正案が今国会に提出された。しかし、かつての大久保さんのように、日雇い派遣に頼る人は膨大に存在する。
![クリスマスコンサートの司会を務める女性。「日雇い派遣は、好きなMCを続けていくために不可欠だった」と語る](/contents/020/202/628.mime4)
クリスマスコンサートの司会を務める女性。「日雇い派遣は、好きなMCを続けていくために不可欠だった」と語る
フリーのMC(司会者)として福岡市を中心に活動する戸谷愛さん(29)は、仕事が少ない時期は、日雇い派遣の家電販売員などをして生計を立ててきた。
MCになるのは幼いころからの夢だったという。「日雇い派遣がなければ、多分すごく困ったと思います」。この夏から事務職の仕事を得て生活は安定したが、現在も派遣会社に登録、週末のイベント司会などの仕事を受けているという。
「派遣がだめになっても、直接雇用する体力はうちにはない」。繁忙時にはスタッフの約半数を日雇い派遣に頼る福岡市の葬儀会社社長は頭を抱えた。大久保さんは「日雇い派遣がなくなると、明日の食にも困り、路頭に迷う人が増えるんじゃないか」と案じた。
法案に盛り込まれた日雇い派遣に対する規制が「是」であっても、仕事を失う人々のセーフティーネットは欠かせない。
日雇い労働者の失業手当「日雇労働求職者給付金」は昨年から日雇い派遣にも適用されるようになった。しかし、情報不足などから、11月末現在、給付を受けたのはわずか1人に過ぎない。 (文中仮名)
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=2008/12/17付 西日本新聞朝刊=