【連載】派遣のあした<2>グループ会社 添乗員20年、年収200万円
2008年12月16日 14:22
有本浩介さん(49)は大手旅行会社の添乗員になって二十数年になる。
仕事柄、人が休むときに働く。「最後にお正月を家族と過ごしたのがいつだったか、もう思い出せないぐらい」だが、好きで入った業界なのでそれは納得できる。「でも時々、何やってんだとむなしくなります」。有本さんには賃金の休日割増も賞与もない。派遣社員だからである。
以前は契約社員だったが、添乗部門のアウトソーシングに伴い、旅行会社が100%出資する派遣会社に移った。400万円近くあった年収は年間実働二百数十日で200万円前後に落ち込んだ。
1日の報酬は国内旅行は1万円、海外は1万数千円。深夜行動が必要な日の出ツアーが入ろうと割増はない。海外から会社に連絡する際の国際電話料金は自腹になった。旅行会社の予約ミスでランクの低い部屋しか確保できておらず、現地で差額分を手出しして変えてもらったこともある。「請求すると、後で仕事を回してもらえなくなる」
妻と共働き。子どももいる。「熱が出ても腰が痛くても休めない。いくつまでもつかな、って不安になりますよ。でもこの年で転職しても高給は無理でしょ」。手元に視線を落としたまま、有本さんは淡々と語った。
〈派遣に派遣の面倒を見させようとする社員に問題はないんでしょうか〉。昨年ヒットしたテレビドラマ「ハケンの品格」で、篠原涼子演じる強気な派遣社員のせりふに、「思わず『そうそう』って1人言を言っちゃいました」と語るのは、福岡市在住の大村香代さん=30代=。大手金融機関で、系列派遣子会社からの派遣で働き、月給約16万円、賞与なし。「ワーキングプアと比べると自分はまだまし」と思うが、同じようなパソコン操作、書類作成業務に当たる隣の正社員と比べると年収の差は歴然だ。
「同じ仕事と責任を負っているのに納得できない」と憤るが、「ちょとしたミスでクビになった派遣もいる」現実では、ドラマのように言いたい放題とはいかない。そんな切ない立場の派遣が、大村さんの部署では常時7割を占めている。
大企業が派遣子会社をつくり、特定の系列企業だけに人材を派遣するグループ企業派遣(通称・専ら派遣)は、労働者の待遇低下につながるとして、労働者派遣法で禁止されている。しかし、「グループ外に派遣する営業努力をしていれば、指導はできても、業務停止の処分までは難しい」(福岡労働局)のが現状。そこで、派遣法改正案には「グループ企業への派遣者数の割合を8割以下に抑える」という規制が盛り込まれた。
先行的に是正に乗り出した会社もある。福岡銀行(福岡市)は2006年、派遣子会社から受け入れていたフルタイムの派遣社員約550人を直接雇用の正社員にした。「現場の一体感を上げ、営業力を強化するため」(人事担当者)で、人件費総額は年間数億円増えたが、「新卒の入社希望者が増え、優秀な人材が集まるという効果もあった」という。
大企業系列の派遣会社を対象にした厚生労働省の調査では、「グループ内への派遣割合が8割を超えている」会社は全体の約7割。派遣法が改正されれば、これらの企業は見直しを迫られる。しかしそれが、派遣社員の待遇向上につながるという保証はどこにもない。 (文中仮名)
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=2008/12/16付 西日本新聞朝刊=