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【人界観望楼】外交評論家・岡本行夫 鳩山さん、防衛戦略誤るな

2009.5.31 02:37

 鳩山民主党が船出した。支持率の推移から見れば鳩山政権が誕生する勢いだ。

 鳩山さんの政策の中心は「友愛」。広辞苑には「兄弟の間の情愛、友人に対する親愛の情」とある。しかし、国外に対しても「友愛外交の推進」とはいかがなものか。気になるのは年末には決めなければならない「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」だ。前者は日本の防衛力のあり方を、後者は自衛隊の具体的な整備方針を5年にわたって決める日本防衛の基本文書だ。

 北朝鮮は、先週、またまた核実験を行った。北朝鮮の国家戦略は極めて明快。最終的にアメリカ本土に届く核弾頭ICBM(大陸間弾道ミサイル)を保有することだ。そうすれば、アメリカに体制保障をしてもらう必要もなくなる。朝鮮半島統一も有利に進められる。その間、ミサイル・核技術の輸出で外貨も稼げる。だから北朝鮮はこれから何度でも、必要なだけ、ミサイル発射も核実験も繰り返すだろう。友愛の情で接すれば北朝鮮が核兵器を放棄する、などと考えるな。

 しかし、北朝鮮との衝突は必ず起こるわけではない。結局は彼らがミサイルと、場合によっては核を使って日本に戦争をしかけてくるかどうかだ。その可能性は日米安保体制の抑止力が効いている限り、さほど高くあるまい。

 日本にとっては、もっと重要な危機、確実にやって来る危機がある。中国の海洋戦略だ。中国人民解放軍幹部はアメリカ太平洋軍司令官に「ハワイから東はアメリカ、西は中国」と太平洋を分割したらどうかと述べた由(昨年5月米議会での証言)。不真面目発言としても、太平洋進出の意図が透けてみえる。現実に中国海軍は九州・沖縄列島・台湾を結ぶ「第一列島線」を越えて太平洋に進出している。そして横須賀・小笠原諸島・グアムを結ぶ「第二列島線」に至る海域で米艦隊を撃滅する「阻止能力」を持とうとしている。まもなく航空母艦の建造も始まる。特に潜水艦隊は驚異的で既に62隻、そのうち9隻は原子力潜水艦だ。数隻は核ミサイルを搭載している。日本が苦しい防衛予算の中で所有している潜水艦はディーゼル型がわずか16隻。

 日本は4月、テポドンIIの破片が空から降ってきて人に当たるのではないかと首をすくめ、自衛隊はこの破片を粉砕するために迎撃ミサイルを並べて空をにらんだ。自衛隊としては当然のことだが、日本国家への真の脅威はそんなところにない。10年、20年後に中国が「第二列島線」内で強力な海洋戦略を進めて日本の周辺海域の安全をコントロールするようになることが最大の脅威なのだ。中国軍の主目標は米艦隊の台湾来援阻止だが、その能力を持つことは日本の周りの太平洋海域が「中国が決める海」になることも意味する。

 小沢氏の「第七艦隊発言」や、短期の安保政策についての民主党の誤りは後から修正もできる。しかし長期にわたる日本の防衛体制の骨組みである大綱と中期防を友愛感覚で作られたのではたまらない。国益は取り返しがつかないほど毀損(きそん)する。

 大綱と中期防決定時期はすぐにやってくる。

 鳩山さん、20年先を見てください。(おかもと ゆきお)

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