現在位置は
です

本文です
◇オンの才人オフの達人

「本気」見せれば道開ける


安彦 良和(やすひこ・よしかず)さん
漫画家・神戸芸術工科大教授
1947年北海道生まれ。70年虫プロダクションに入社し、アニメーターに。漫画家としては、79年に「アリオン」でデビュー。90年「ナムジ」で日本漫画家協会賞優秀賞、2000年「王道の狗(いぬ)」で文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。26日に「THE ORIGIN」の画集が発売される。

 今やロボットアニメの代名詞ともなった「機動戦士ガンダム」。キャラクターデザインを担当した安彦さんの描く、ギリシャ彫刻のような端正で華麗なタッチは、初放送から30年たった今も多くのファンを引きつける。現在、月刊ガンダムエース(角川書店)に「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を連載。アニメで触れられなかった部分にも光を当て、物語の再構築に取り組んでいる。

きっかけは新聞の求人広告

 子供の頃から絵を描くのが好きで、漫画家にもあこがれましたが、早々にあきらめ、学校の先生を目指して弘前大学へ進学しました。しかし、学生運動に巻き込まれて首になり、やむなく、職を求めて上京しました。ある日、新聞の求人広告欄を眺めていると、手塚治虫さんが作ったアニメ制作会社「虫プロダクション」がアニメーターを募集していました。当時、アニメに興味は全くありませんでしたが、マッチのラベル用に絵を描いてお金をもらった経験があり、「絵を描く仕事ならできそうだ」と、この業界に飛び込みました。

 アニメーターというと、今日では長時間低賃金労働が指摘されていますが、虫プロには正社員として入社し、ボーナスも出たので、待遇に不満はありませんでした。ただし、虫プロは3年後にオイルショックの影響で倒産し、以後はフリーになりました。むしろ仕事内容の方が不満で、上から言われるまま同じような絵を何枚も描いていくのは、非常に苦痛でした。

 「自分で考えた、独創的な作品を描きたい」という思いは日に日に強くなります。まずは、つまらない現状を打開しようと、1か月分の作画の仕事を3週間で終わらせ、1週間空いてることを監督らにアピールし、アニメの設計図にあたる絵コンテを描かせてもらいました。必然的に演出に関与できるので、仕事も面白くなりました。嫌な仕事から逃げるのではなく、常に手を動かしていれば、仕事の幅が広がり、やりたい仕事に近づけると思います。

 現在、大学でアニメ制作の基礎を教えていますが、学生たちを見ていると、「やりたいことと違う」と言って課題を提出しないなど、ハングリーさが感じられない傾向があります。やりたい仕事をやるまでには長いプロセスがあり、地道にスキルアップしていかないと、仕事を割り当てる上司も振り向いてくれません。上の人間にアピールするには、まず本気であることを見せないと。本気なら、多少下手でも評価され、道が開けるものです。誰もが生き残れる業界ではないので、学生たちには、いい意味で人を出し抜くことも学んでほしいと思います。

ガンプラブームに驚き

 ガンダムは、地球連邦とスペースコロニー移民による戦いを背景に、少年たちの葛藤と成長を描いた群像劇で、子供向けではなかったため、初放映の視聴率は伸びず、途中で打ち切りになりました。それはいつものことで、全く驚きませんでしたが、その後起きた熱狂的な「ガンプラ」(ガンダムのプラモデル)ブームを始め、ガンダムの名を冠した作品が続々と登場し、果ては今年7月、東京・お台場に等身大(高さ18メートル)のガンダムが立つまでになるとは、夢にも思いませんでした。

 息抜きは、「わらわ」というメスのコリー犬(体長約1・5メートル、体重30キロ)の散歩と寝酒です。特に趣味はありませんが、趣味を仕事にできたので、一番幸せだと思っています。人生は、仕事をする時間が一番長いのですから。(談)

2009年5月29日  読売新聞)

 ジョブサーチ全体の前後の記事

現在位置は
です