マンガ家のアシスタント生活をコミカルに描いた葛西りいちさんのブログをまとめたマンガ「あしめし アシでメシが食えんのか」(小学館)が発売された。葛西さんに、現代版「蟹工船」のような?壮絶なアシスタント生活の実態を聞いた。【立山夏行】
「あしめし」は、アシスタント歴5年の葛西さんが、仕事場で起きたさまざまな出来事や、ハードな仕事をマンガで描いたブログ。「アシがどれだけつらい仕事かはいてやれ」とだけ考えてスタートしたブログは、08年6月の開始以来、徐々にファンを増やし、今では1日5000アクセスを記録している。
葛西さんは「昔のマンガを読むと、現場は殺伐としていて、睡眠時間もないというイメージが強いのですが、実際はきちんと寝る時間もあるし、きちんとした職場なんです」と語る。週刊連載マンガのアシスタントの場合、週3~4日勤務で収入は月約15万円程度、月刊の場合は2、3作を掛け持ちすれば何とか生活できるという。
だが、仕事はやはり過酷だ。葛西さんは、18時間ぶっ通しで作業をして、マンガ家が「これからは気力の勝負!」というかけ声でさらに仕事は続き、「いつ終わったのか分からない」というほどの長丁場を体験したこともある。さらに、「あしめし」では、男性と一緒に雑魚寝をした経験や、多忙のため睡眠障害に陥り、処方される薬が増えていくなど、壮絶な体験が描かれている。
そんなブログを見たビッグコミックスピリッツ編集部の加茂伸幸さんが出版を持ちかけた。葛西さんがマンガを持ち込み、担当として長年付き合っている加茂さんは、現代版「蟹工船」のようなブログに、「葛西さんは、アシスタントとしてどんなにつらい体験をしても、根底にマンガに対する絶対的な愛情があるから、暗い話にならない」と評価している。
葛西さんは、「作家さんの機嫌が悪くなった時がアシスタントとして一番つらい」と語る。特に編集者とシビアな打ち合わせをした後などは、なかなか声をかけられないそうだ。一方、電話口でどれだけ激しい言葉で言い合いをした後でも、アシスタントとの会話は変わらず穏やかなマンガ家もいるという。葛西さんは「自分が『アシスタントの雇用主』という自覚がある作家さんは、仕事がしやすい」と語る。
アシスタントに一番大切なものは、絵のうまさではなく「コミュニケーション能力」だと語る。アシスタントを続けていくうちに絵はうまくなっていくが、コミュニケーション能力がない人は、仕事がなくなっていくからだ。逆に「前に来た時と洗面所のタオルが変わっていないだけで嫌という潔癖な人も向いていない」という。
「本当にあったゆかいな話DX」(竹書房)で、マンガ家として本格デビューを飾った葛西さん。「初めてアシスタントに付いた作家さんが言ってくれて感動したのですが、『もし、自分のマンガが書きたいと思ったら、仕事は休んでもいいからね』とアシスタントに言えるようなマンガ家になりたい」と語った。
2009年5月4日