正念場迎える200床規模の中小病院
【第63回】アキよしかわさん(グローバルヘルス・コンサルティング米国会長)
病院同士のベンチマークを駆使したコンサルティングの先駆けとして知られるグローバルヘルス・コンサルティングのアキよしかわ米国会長は、200床クラスの中小病院が今後、生き残りを図るのはかなり厳しい状況だとみる。より大規模な病院が地域に台頭する一方、患者と共に実力ある医師を引き付けられるだけの魅力を引き出すのは至難の業だ。優秀な人材の確保・教育に的確なマーケティング戦略、ブランド力の醸成…。課題山積の中小病院に、果たして活路は?(兼松昭夫)―特に200床規模の中小病院にとって、厳しい時代になりつつあるとお考えになるのはなぜでしょうか。
急性期病院の支払い方式に、DPCが広がりつつある点が一つです。400−500床クラスの比較的大規模な有力病院があり、その周辺を200床クラスの中小病院が取り巻く地域があったとします。平均在院日数に縛りがない出来高による支払い制度では、有力病院はいつも満床で、患者さんを受け入れることはできなかったわけです。
ところが、DPCに移行すると、これらの有力病院でも、在院日数が減少して空きベッドが生じ、より多くの患者さんを受け入れ、回転率を上げる方向にインセンティブが働きます。これによって、有力病院に患者さんが集中する可能性があるのです。DPCは中小病院にも広がっているので、中小病院だけが集まった地域でも、一番人気、二番人気の病院に患者さんが集中し始めると思います。
医師不足のあおりから、大学の医局による医師の引き揚げも社会問題になっています。医師が一人減ると、病院では年2億円程度の売り上げ減少につながるといわれます。患者と医師が同時にいなくなれば、病院のダメージはより大きくなります。
■病院の身売りも困難に
―そうした状況は既に起こっているとお考えでしょうか。
現実になりつつあります。これら以外に、優秀な人材の不在も、特に民間病院にとって深刻な問題です。200床規模の病院の中には、カリスマ性のあるリーダーが手腕を発揮してかじ取りしてきたケースがたくさんあります。けれどもこうしたワンマン経営は、出来高制だからこそできたことであって、よりシビアな経営感覚が求められるDPCの環境下では難しいでしょう。経営面のかじ取りを担う人材の育成が急務です。DPCデータは、経営資源の効率化や自院の現状分析など、いろいろなことに活用できます。こうしたデータ活用の重要性に気付く人材が増える組織は育ちます。そのためのカギは、リーダーがこうした人材に重要性を見いだせるかどうか。カリスマ理事長をイエスマンが取り囲み、優秀な人材を育ててこなかった病院には、越えることが難しいハードルです。
―要は、優秀な人材がいるかどうかということでしょうか。
そういう側面もあります。けれども、周辺の有力病院に患者さんを取られてしまっては、優秀な人材がいくらいても淘汰(とうた)は避けられません。
実際、かつては日本全国に1万以上あった病院は、近年では毎年50施設ほどずつ減少し、現在は9000を割り込みました。自治体病院改革も進んでいます。自治体病院の中には、地域の評判が悪いケースもかなりあります。毎年税金を負担してそんな病院を残すくらいなら、車で隣町に通うことを選択する人もいるはずです。病院が今後、どこまで減るのかは分かりませんが、こうした動きは加速するでしょう。
―民間病院の売却も進んでいます。
確かにそうです。ただ、ここにも問題があります。これまでは地域ごとの病床数が規制される中、建物が古かったり、医療に対する地元での評判がいまいちだったりしても、その病院が持つ許可病床に既得権益としての価値がありました。しかし、病床の削減が進むこれからは、病床規制自体に意味がなくなります。そうなると、病院が持つ許可病床の価値も失われます。やがては病院を売ろうとしても、買い手がいなくなるでしょう。病院経営には、医療機器などへの多額の投資が伴います。大きな負債を抱えているオーナーは今後、非常に厳しい立場に追いやられるかもしれません。
大手病院グループの中には、10年以上前からこうした状況に気付いているところもあります。病院買収を持ち掛けても、「貴殿の病院に価値はない。さら地にして持ってこい」と。
■二極化する中小病院、急性期での生存率は15%
―急性期として生き残れる病院とそうでない病院には、どのような差があるのでしょうか。
DPCは、これまで急性期病院にとって「選択肢」でしたが、これからは「踏み絵」です。急性期に残るのであれば、DPCを選択せざるを得ません。そしてDPCの環境下で生き残るには、優秀なドクターや経営感覚にたけた事務系の職員をどれだけ集められるかがカギになります。
後方支援病院になると、運営は楽です。しかし、後方支援病院には優秀な外科医などは必要ないので、いったんこちらに移行すると、自然とこうした人材は集まらなくなる。これまで何となく急性期を手掛けてきた中小病院は、やがて急性期か後方支援かのいずれかに二極化するでしょう。
今後、400床以上の病院がダウンサイジングし、200床規模に新規参入するケースも増えると思います。こうした病院には、人材層や集患力にいわば「のりしろ」があります。これに対し、200床規模の病院はこれ以上ダウンサイジングのしようがないし、そもそも数が多過ぎます。わたしは、DPCの中で10年後まで生き残れるのは、100ある中小病院のうち15病院程度だとみています。
―中小病院がその15施設に残るには、どうすればいいでしょうか。
優秀な人材を集めるだけでなく、病床の回転率も上げなければなりません。それには、外科系であれば手術の症例数を確保し、内科系であれば地域住民の支持を獲得し、地域でダントツの集患力を持つためのブランド戦略が求められます。こうした戦略を中小病院が単独で展開するのは難しいけれど、複数の病院がそれぞれの強みを出し合ってネットワークをつくれば、有力病院に対抗できる可能性があります。今後は、こうした組織化された病院集団も現れるかもしれません。
―アキさんは、医療スタッフの働き方も変わる可能性があるとおっしゃっています。
米国で女性の社会進出が進んだ背景の一つには、「フレックスタイム」の普及があります。子どもがある程度成長したとしても、女性は家庭の中で母親としての役割を引き続き果たさなくてはなりません。そのため米国の病院では、例えば勤務時間を月−木の午前9時−午後3時までに設定し、金、土、日曜をお休みにするような形態が認められています。全米で最も優秀な病院の一つとされるミネソタ州の「メイヨークリニック」では、ナースの9割以上がこうしたフレックスタイムを適用しています。
近い将来、日本でもこうしたフレキシブルな勤務形態が普及する可能性があると考えています。そうしないと優秀な女性が活躍できませんし、病床削減が進む中、病床規模や需要に見合った人件費を維持することが難しいという事情もあります。
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