2006年03月29日

ホスピタリティの創造にはマニュアルが必要

「3月5日午後5時半ごろ、韓国ソウルのロッテワールドでアトラクション、『アトランティス』に乗ったソン某(28歳男性)さんが石村湖に転落し死亡した。」

この事故の続報が気になっていたところ、27日に次のようなニュースが飛び込んできました。

「アトラクション死亡事故を謝罪するために始まった『ロッテワールド無料開放イベント』に多くの人々が殺到し、激しい込み合いにより負傷事故が相次ぐと、ロッテワールドはこのイベントを急きょ中止することにした。

このイベントが始まった26日午前、ソウル蚕室ロッテワールドには一瞬で数万人が殺到、凄まじい混雑となり、負傷事故が相次いだ。10代の若者を中心に予想より多くの人々が殺到、統制不能の状態となり、事故が発生した」(朝鮮日報より引用)

私はこのブログでホスピタリティの三大要素は安全、おもいやり、居ごこちであると繰り返し述べてきました。

要素とは成分、条件のことですが、ホスピタリティ環境を構成する要素をこのように説明しているのは日本中で私だけであるかもしれません。
すくなくとも、学校や専門学校では教えていないようです。

さて本題に入ります。

私はロッテワールドへは行ったことはありませんが、ロッテワールドがディズニーランドとは異なり、ホスピタリティの環境、つまり安全で、おもいやりがあり、居ごこちの良い環境にないことは上記の報道内容から容易に推察できます。

それではなぜ、ロッテワールドではこのような不祥事が続発するのでしょうか。
今日はそのことを考えてみたいと思います。

結論から書きます。今日の表題の通り「ホスピタリティの創造にはマニュアルが必要」なのです。

不祥事が続発する理由は、ロッテワールドにはマニュアルがない、あるいはマニュアルは有ってもまったく機能していないからである、と私は断言します。

このように断言する訳を述べる前に、私がホスピタリティの三大構成要素は安全、おもいやり、居ごこちである、と繰り返し述べてきた理由を明らかにしたいと思います。

それは至極当たり前のことです。三大要素の安全、おもいやり、居ごこちは、ディズニーランドで私がたたき込まれてきた、ホスピタリティの環境づくりの「成功の秘訣」そのものであるからです。

ディズニーランドにはSCSEという「成功の秘訣」があります。SCSEとはSafety(安全性)、Courtesy(おもいやり)、Show( ショー)、Efficiency(効率)の頭文字を並べたものです。

SCSEはディズニーランドの全ての「価値判断」や「行動判断」の基準です。ディズニーランドが提供する全てのサービスの良し悪しを判断する「ものさし」であるということです。

ディズニーランドでは「基準」「ものさし」が明確ですから、良いものは良い、悪いものは悪いと容易に判断できます。
提供するサービスにS C S Eの要素がしっかりと含まれているか、S C S Eの順序はどうなっているかということを「考える」ことにより、実に仕事が「うまくいく」のです。失敗しないのです。

ディズニーランド全体がこの「成功の秘訣」SCSEで動いているといっても過言ではありません。

さらにいえば、SCSEの要素そのものが、ディズニーランドが皆様に提供する製品であり商品である、と言うことができるものなのです。

もうお分かりのことと思いますが、私がディズニーからたたき込まれた、ホスピタリティの環境づくりの「成功の秘訣」はSCSEであり、このブログで繰り返し書いている「ホスピタリティの三大構成要素」はSCSEの「SCS」であるということなのです。

ホスピタリティの三大構成要素は安全、おもいやり、居ごこちであると、私が繰り返し述べてきた理由、根拠をご理解いただけたことと思います
(構成要素から「E 効率」を外している理由については後日説明したいと考えております)


話を戻します。
ロッテワールドではなぜ不祥事が連続して発生するのでしょうか。

その理由はロッテワールドにはマニュアルがない、あるいはマニュアルは有ってもまったく機能していないからだと書きました。

それではそもそもマニュアルとは、いったい「何もの」なのでしょうか。
-----------------------------------------------------------
ディズニーランドから連想する言葉の一つにマニュアルがあります。経済関係の雑誌で執筆する学者やコンサルティングを生業にする方々が「マニュアル通りの対応の弊害」とか「マニュアル教育の限界」とか、いわゆる「マニュアル悪者論」を展開しています。はたしてその通りでしょうか。

ディズニーランドには「標準作業手順書」というマニュアルがあります。「センター・オブ・ジ・アース」に一冊、「ガジェットのゴーコースター」に一冊というように各ロケーションごとにマニュアルがあります。東京ディズニーリゾート全体だと何百冊にもなることでしょう。

仮に五〇〇種類のマニュアルが使用されているとすれば、五〇〇冊分の知恵と工夫の集積・知恵と工夫の歴史が存在しています。ディズニーランドのマニュアルとは携帯電話の取扱説明書やゲームの攻略本のように「無機質」なものではありません。森や雑木林に生きている一本の樹木のように、変化し成長していく「有機的」なものなのです。
「すべてのゲストがVIP」東京ディズニーランドで教えるホスピタリティより
-----------------------------------------------------------

私のマニュアル論の一部を紹介します。

◇マニュアルは企業の体質を改善し企業を発展させるものです。マニュアルは個人知識から組織知識へ英知を結集させたものです。
マニュアル作成によって「知識、ノウハウは盗むもの」という組織体質から「知識、ノウハウは教えあうもの」という前向きでオープンな組織体質へ改善させることができるのです。

◇マニュアルは人間の能力を発揮させ無限の可能性を引き出します。一人ひとりの能力を最大限に発揮してもらうにはマニュアルの力が有効です。マニュアルという「決めごと集」があるからこそ、人間は安心して可能性にチャ
レンジすることができるのです。

◇現場力の低下に伴う苦情や不祥事の発生は「結果、現象」であり、会社や組織が正常でないというメッセージなのです。そのままでは倒産か崩壊につながってしまいますが、そうならないようにするメカニズムを明確に記したものがマニュアルです。
マニュアルは現場力を向上させ、苦情や不祥事を防ぐ役目を持っています。

◇コンプライアンス(法令順守)だけでは会社は存続できません。法令は社会の最低限のルールであって、法令さえ守っていれば何をやってもいいというのではありません。そして、より会社のルールを明確にするために役立つのがマニュアルなのです。

◇マニュアルは決めごと集です。会社全体に関わる大きな決めごとや、最小単位の職場での小さな決めごとを集大成させたものがマニュアルです。

◇野球にもサッカーにもゴルフにも「ルール」があります。ビジネスも同じですが、チームワークを必要とする組織活動の場合「ルール」を守らないと他者に迷惑をかけるだけではなく、組織全体の浮沈にも関わる大問題に発展してしまうこともあります。

◇マニュアルがないということは、準備ができていないということです。問題点が見つけられないということです。
「準備ができている」といことは、「用意ができている」「仕度ができている」ということであり、「準備ができていない」ということは「手抜きをしている」と換言することができます。


冒頭に記した今日のテーマは、
「それではなぜ、ロッテワールドではこのような不祥事が続発するのでしょうか」でした。

そして、その答えは、
「ロッテワールドにはマニュアルがない、あるいはマニュアルは有ってもまったく機能していない」です。

もうお分かりですね。
「決めごと」が守られていないことが事故、不祥事の原因です。
そして、ロッテワールドでは、働いている人の英知が結集されていないということなのです。

最後に大切なことを一つだけ書いておきます。

それは、マニュアルによって伝えるべき重要な内容の一つが「SCSE」であるということです。

ロッテワールドにSCSEという「成功の秘訣」があり、その「成功の秘訣」がマニュアルにより人から人へと伝承されていれば、事故や不祥事は決して続発しなかったことでしょう。

ディズニーランドのSCSEとマニュアルについては今後もふれていきますが、SCSEとディズニー方式のマニュアルという、ディズニーランドが有する「宝物」についてはそう簡単には説明できません。

ぜひ、小書「すべてのゲストがVIP」東京ディズニーランドで教えるホスピタリティを読んでみてください。SCSEやマニュアルがディズニーランドの「宝物」であるということをご理解いただけることと思います。