2006年01月10日

ディズニーランドのホスピタリティ・アクションとは

このホスピタリティ・ブログを書き始めてから3ヶ月以上経ちます。
読んでくださっている方もディズニーランドのホスピタリティついてなんとなくお分かりになってこられたことでしょう。

今日はホスピタリティの原点にもう少し近づいてみたいと思います。

先日、ディズニーランドの「こころ温まる話」で北海道のご夫婦の体験談を紹介しました。

「寝てしまった娘を抱いてベンチに座っていたら、(私はその間にショッピング)向こうから七人のこびとがやって来て、娘の横を通る時、廻りのゲストの方々に指で“シー"という格好をして通り過ぎていったそうです。この話を主人から聞いて、私も感激してしまいました。」


どの様に表現すれば良いのでしょうか。この体験談に「ディズニーランドのホスピタリティのすべてが語られている」と言いたいのですが。

ホスピタリティとは「概念」であり、7人のこびとが“シー"という格好をしたことは実際の「行動(アクション)」です。
では、どうしてこの7人のこびとは、このような「行動(アクション)」をしたのでしょうか・・・

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ディズニーランドでは「群衆」という言葉を使いません。たとえ多くの人たちでも「かたまり」とは考えてはいけないのです。別々な顔と名前と考えを持った別々な人として応対します。人々は誰だって群衆の一人として扱われたくありません。

ディズニーランドでは招待状を出し招待した訪問者として、一人一人を大切に考え、接遇しているのです。そうです。キャストが心がけている大切なことは「一人一人のゲストときちんと応対する」ということなのです。

「すべてのゲストがVIP」 ディズニーランドで教えるホスピタリティ 芸文社 本文より
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キャラクターの周りにはたくさんのゲストが集まってきます。当然、白雪姫もいたことでしょう。
大切なゲストである「寝ているこども」を起こしてはいけない、7人のこびとはそう考えたのです。

ディズニーランドのホスピタリティ・オペレーションとは、大勢の人に画一的な「行動(アクション)」を提供する運営方法とは正反対の運営方法です。
つまり、ディズニーランドでは、すべてのキャストが一人ひとりのゲストを「別々な顔と名前と考えを持った別々な人」と考え、その個人が期待する別々な「行動(アクション)」を提供しているのです。

簡単に言えば「個別対応」です。そして、キャストもキャラクターたちも自分の役割を知った上での「個別対応」を行います。たとえば、「3匹のこぶた」と一緒に登場するオオカミは、決して寝ている子供に“シー"という格好などしません。反対に元気そうな子供を脅かしたりします。

「個別対応」ですから、一人ひとりのゲストの事情を聴きます。その上で「できることは惜しみなくする」のです。

もちろん、できないことはできませんが、それでもディズニーランドのキャストは、みな「豊かさマインド」状態です。ゲストの期待になんとか応えようと一生懸命努力するのです

紹介した「温かい話」に関わったキャストも7人のこびとも全く同じパラダイム、同じマインドであったのです。
寝ている子供に“シー"という格好をした7人のこびとも、「お子様ランチ」のレストランのキャストも、ディズニーランドでは当たり前の「行動(アクション)」をしただけのことです。

スーパーバイザーであった私も全く同じでした。ゲストの車椅子がパンクしてしまった時には、車椅子レンタルの修理キットを使いパンク修理もしました。

他のスーパーバイザーからの依頼でしたが、修学旅行の高校生が自分のメガネを壊してしまった時も、浦安市内のメガネ屋まで持って行って修理してきました。その高校生が「メガネがないと修学旅行を楽しめない」と申し出たからです。

芸能人に関するエピソードもたくさんあります。

それでもキャストには特別なことをしているという意識や、感動を与えたいという意識など全くありません。なぜならば、困っているゲストの手助けをすることこそがディズニーランドのキャストの仕事そのものであるからです。

お客様の期待に対し「個別対応」をしているのはディズニーランドだけではありません。

たとえば一流のソムリエは、ワインを注ぎに回る時にはお客様の期待を見抜いた上でサービスをするそうです。

楽しそうに話をしているカップルにはあまり近づかず、反対に会話の少なそうな熟年のご夫婦に対しては、会話を提供するために何回もテーブルを訪れるそうです。

ここで大切なことは、お客様の期待を見抜く力の養成ですが、これもホスピタリティの環境とマインドがあればそれほど難しくありません。失敗を恐れず「画一対応」を「個別対応」に変えてみたらいかがでしょうか。

この「個別対応」はもちろんファミリーレストランでも可能です。一人ひとりのお客様をよく「観察」することによりお客様が「何を求めているか」ということが分かってくるものです。繰り返しますが、決して難しいことではないのです。

まとめますと、
「個別の相手」が何を求めているかを知り、それに「個別に対応」する、これこそがディズニーランドのホスピタリティの原点であり、ディズニーランドのホスト・ホステス達の仕事そのものであるということなのです。


ディズニーランドはこれまで、ディズニーランドの真実を全く知らない多くの学者やコンサルタントから「マニュアルどおりの行動」と揶揄されてきましたが、このように真実は全く違うのです。

ディズニーのマニュアルが教えていること、それは一人ひとりの期待に応えるという「個別対応」の秘訣そのものなのです。
ディズニーランドのマニュアルについてはぜひこちらをご覧下さい)

最高のマニュアルがあっても「個別対応」を提供するということは大変なことです。
画一的なサービスを提供したほうが「楽なこと」ですが、ディズニーランドでは決して「楽をする」ことを許しません。

常に最高のサービスを提供することが求められます。
なぜならば、楽をしていたらお客様にリピーターやライフロングカスタマー(生涯顧客)になっていただけないからです。

さて、このブログでは今までに、
ホスピタリティ・マインド
ホスピタリティ・ビジネス
ホスピタリティ・マネージメント
ホスピタリティ・オペレーション

という用語を使用してきましたが、よりホスピタリティの中身が分かっていただけるように新たにホスピタリティ・アクションという用語を追加使用させていただきます。

(横文字ばかりで申し訳ありませんが、ホスピタリティの概念を日本語に置き換えるのは難し過ぎます)

ホスピタリティ・アクションとは、こびとの“シー"という「しぐさ」やレストランでのサービスなど、ホスピタリティ・マインドに基づいた「一対一の『真実の瞬間』的行動」ということです。

ディズニーランドのキャストのすべてのアクションには、「ハピネス」つまり「しあわせ」を提供したいという「こころ」が込められています。

「こんにちは」というあいさつからショップでのレジ応対、そしてミッキーやミニーをはじめとするキャラクターの「しぐさ」まで、ディズニーランドのキャストのすべてのアクションが、こころがこもったホスピタリティ・アクションであり、このホスピタリティ・アクションの集合体がホスピタリティ・オペレーション(心がこもった接客現場運営)であるのです。

最後に、
今日のこのブログを読んだ方は、「お客様のわがままを聞くことにならないか」という疑問を抱いたことと思います。
「ディズニーランドだからできるのであって、自社に落とし込むのは難しい」と捉えた方も多いと思います。

この見方は間違っています。
ホスピタリティと「個別対応」の関係について、いつかもう少し詳しく述べてみたいと思っていますが、働く人のものの見方とマインドを少しだけ変えることで「個別対応」もホスピタリティの環境づくりも可能です。

要は「やる気があるか」ということだけなのです。やる気があれば誰にもできることなのです。