トヨタ方式 ディズニー方式 おもてなしとホスピタリティ @
結論を先に述べます。
◇生産現場へのトヨタ方式の導入はきわめて効果的であるが、サービス産業への導入効果は依然「未知数」。
◇サービス産業の生産性向上に対してはディズニー方式の方が数段階上をいっていると考えられる。
「効率化と意識改革」の切り札といわれるトヨタ方式は、自動車工場などの生産現場に限らず、今や官民を問わず日本全国で広く導入されています。
最近では中部国際空港の建設と運営や、郵政公社の業務効率化などにもトヨタ方式が導入されているようです。
愛知万博にトヨタ方式が導入されていたのかどうかは分かりませんが、博覧会協会の会長がトヨタ出身の方ですので、会場の建設と運営に全く影響を与えていなかったことはないと私は考えています。
評価の高いトヨタ方式の中身についてはここでは紹介しません。(以下のキーワードを組み合わせWEB検索してください)
トヨタ方式 岩手県 生産管理 JR 郵政 トヨタ方式とは
一方、ディズニー方式とは
「適正な人材を採用し、訓練し、絶えずコミュニケーションし、意見を求め、仕事ぶりを認め、一緒に祝うことが大切です。従業員の意見と貢献に敬意を示せば、彼らは自分のしていることに誇りを持ち、質の高いサービスを提供するようになります」
PHP研究所 「ディズニー方式が会社を変える」より引用
私が考えるディズニー方式の重要ポイントです。
◇顧客である人々が何を求めているかを知る。
◇従業員教育に経営資源を惜しみなく投入する。
◇顧客志向と従業員志向は車の両輪と考える。
◇組織全体の知識と創造性の蓄積から革新的なアイディアを生み出す。
◇顧客を我が家に招かれたゲストのようにもてなす。
◇他に類をみない顧客サービス、卓越したサービスを提供する。
「It takes people to make the dream a reality」
ディズニーで働いた人間であれば知らない人はいないこの言葉 「夢を現実にするのは人である」
トヨタ方式とディズニー方式の優劣を付けるために書いているのではありません。
ディズニー出身の私が今後も一貫して主張していきたいのは、「それぞれに得意分野がある」ということです。
トヨタ方式の得意分野はハードウエアの生産に関する分野です。そして生産コストを下げるための物流に関する領域であると思われます。
郵政事業の効率化でトヨタ方式が取り入れられた理由も「郵便局の内外でいかにモノ(郵便物)を効率的に移動させるか」がテーマであったものと推察されます。
誤解を恐れずに書きますと、トヨタ方式とは、
「モノが中心であり、ヒトがどのようにそのビジネスに関わっていくのか」
「商品であるモノの生産や物流に対して、ヒトをどのように働かせることがベストか」を追求するものと考えます。
一方ディズニー方式の得意分野はソフトウエアの生産に関する分野です。世界に名高いディズニーのソフトウエアについては説明を必要としないでしょう。
テーマパークも同じです。前述したようにディズニー・テーマパークで提供しているものは「卓越したサービス」というソフトウエアです。
ディズニー方式とは、
「ヒトが中心であり、ヒトがどのようにそのビジネスに関わっていくのか」
「保存のできない商品であるサービスの提供に対して、ヒトをどのように働かせることがベストか」を追求することです。
トヨタが人をモノのように扱っていると言っているのではありません。
私はトヨタ方式に関する書籍を何冊か読んでいます。トヨタは「人の知恵や可能性を信じる経営」を行っており、人による小さなカイゼンの積み重ねこそが「世界のトヨタ」の成功の秘訣であることも知っています。
ここで「ハロー効果」という用語を紹介します。知っていましたか?
人事考課の際に気をつけなくてはいけないもので「何か1つ良い(悪い)と判断すると、なにもかも良い(悪い)と評価してしまう」ということです。
「後光(ハロー)がさす」の後光効果ですが、日本人が比較的陥りやすい間違いの1つであると言われています。
日本政府を含め、トヨタ方式に対する評価にこのハロー効果の作用が働きすぎているように思えます。日本中の改革、カイゼンは何でもトヨタ方式です。
小泉首相は、先の総選挙の街頭演説で「中部国際空港の成功も民間(トヨタ方式)の力があったから」と力説していました。だから「改革を止めるな」と・・・・
ここで少し脱線します。
小泉首相は「改革を止めるな」ですが、トヨタ方式は「改善を止めるな」です。
それでは改革と改善の違いとは?
私はディズニーランドで働いていたときに、両者の違いについて次のように学びました。
改善とは、過去の延長線上で、悪い面をもっと良くするという考え方
改革とは、過去を否定し破壊した上で、新たな価値を創造するという考え方
つまり改革とは前任者がやってきたことを否定し、「ぶち壊す」ことから始めるくらいの意識が必要であるということです。
当然のことですが、トヨタ方式の要諦は「カイゼン」です。前任者がやってきたことを「ぶち壊す」ことではありません。
話を戻します。繰り返しますが、トヨタ方式とディズニー方式は得意分野が違います。
先日、このブログで「郵政職員 バッチで格付けは逆効果」という私の考えを述べました。
郵政公社の副総裁がトヨタ出身の方であることを考えれば、この格付け作戦には「トヨタ流の考え方」が入っていることは容易に推察できます。
もしそうであれば、サービス向上に対する「トヨタ流の考え方」に対して疑問を抱かざるを得ません。
サービスの最前線で働くスタッフの能力をバッチで格付けすることは、サービス業のセオリーに明らかに反するからです。
副作用が強すぎます。
このままでは、
なんでも服従型の職員、常に上(上司)だけを見ているヒラメ型の職員、「沈香も焚かず屁もこかず」型の職員ばかりになってしまうのではないでしょうか。
これでは、人の知恵が大切と考える「トヨタ方式」にも反することになってしまいます。
後日、トヨタのレクサス販売に関する「おもてなし」について述べてみたいと考えています。
「高級車にふさわしい質の高いもてなしの提供」が販売戦略だそうですが、はたしてうまくいくのでしょうか・・・?
長くなりますので話をまとめますが、対象が「官」であっても「民」であったとしても「より効率的に」「よりヒトの生産性を高める」ことはトヨタ方式だけでなく、ディズニー方式も有効です。
トヨタ方式は「乾いたタオルをさらに絞る」といわれますが、ディズニー方式でもタオルは絞り続けます。
違いは「これ以上絞ったら従業員のホスピタリティ・マインドに影響する」ところまでは絶対に絞らないということではないのか、と私は考えています。
今後もディズニー方式の有効性については機会があるごとに触れていきます。
最後に堺屋太一元経済企画庁長官のこの「視点」を記載しておきます。
日本社会は近代工業化社会の崩壊後も規格大量生産型の「ものづくり国家」を目指した。アメリカは反対に個人の思考力、創造力を基本にする「知価社会」を目指し、知価産業を育てた。それがマイクロソフトであり、ディズニーだ。