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社説:温暖化中期目標 ビジョン伴う数字示せ

 日本が2020年までに温室効果ガスをどれほど削減するか。「中期目標」の議論が終盤を迎え、最終決定は麻生太郎首相の政治決断にゆだねられた。6月前半にも数値を公表する段取りだ。

 京都議定書以降(ポスト京都)に、日本がめざす社会の構造を左右する重要な判断である。首相には、国際交渉を視野に入れた覚悟と戦略を示してほしい。

 政府の検討委員会は4月、国内の実質的な削減幅について、90年比で4%増~25%減の6選択肢を示した。その上で、意見交換会などを通じて国民の意見を聞いてきたが、建設的な議論には至らなかった。日本経団連を中心とする産業界が、もっとも緩い「4%増」を主張し、環境NGOが「25%以上の削減」を主張する構図はこれまで通りだ。

 一方、内閣官房の世論調査では、「7%減」を選んだ人が半数近くいた。財界の中にも、経済同友会のように「7%減」を支持する団体もある。これらを背景に浮上しているのが、「7%減」を軸に落としどころを探るという見方だ。

 しかし、中間的で、国民の支持もあるから7%でいいというほど単純な話ではない。地球の将来をどうするのか、それに応じて日本の社会をどう変えるのか。選択肢にある15%減、25%減の可能性を排除せず、大きなビジョンに基づいて数字を示す必要がある。

 排出増加が国際的に受け入れられるはずはなく、産業界は意識を転換すべきだが、政治の側も産業界を説得する努力をもっと真剣にすべきだ。それを前提に、世界の大量排出国である中国や米国の積極的な参加を促すためにも、意欲的な数値を示すことが大事だ。

 その際には、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の分析も重視しなくてはならない。地球規模の被害を抑えるには、20年までに先進国全体で90年比25~40%削減する必要があるとの指摘は、世界が念頭においているものだ。

 公平性の確保も大事だ。ただ、公平性の指標はさまざまで、各国の思惑がからむ。すでに、日本にとって有利な指標である削減費用だけでなく、国内総生産(GDP)当たりの排出量、エネルギー効率、歴史的な排出量といった指標が提示されている。国際交渉の場では、これらの組み合わせで議論が進むと考えられ、全体を見越したシミュレーションをしておくことが大事だ。

 どの選択肢を選ぶにしても、今、示されているのは、国内での削減量だ。途上国での排出削減などについても、具体的戦略を練っておくべきだろう。

毎日新聞 2009年5月31日 東京朝刊

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