二〇〇九年度補正予算が成立した。未曾有の経済危機を背景に、歳出総額が約十三兆九千億円に上る過去最大規模となったが、必要性や効果が疑問な施策も盛り込まれており、どこまで景気回復や国民生活の安全・安心につながるのか、定かには見えない。
今回の補正は追加経済対策の裏付けとなるもので、当初予算と合わせた一般会計総額は初めて百兆円を突破した。雇用対策や企業の資金繰り支援に重点配分。環境対応車や省エネ家電の購入補助といった「低炭素革命」の実現なども盛り込んだ。
歳入では国債を約十兆八千億円追加発行、本年度の新規国債発行額は過去最大の約四十四兆円に上る。また、「霞が関の埋蔵金」と呼ばれる財政投融資特別会計からも三兆円余りを取り崩すなどして充てた。借金もいとわず、多彩な項目を集めた補正予算といえよう。
危機的な経済状況の中で大胆な対策は必要だ。問題は将来に付けを残す巨額の借金をしてまでも打ち出すに値する対策の中身かどうかである。大がかりな財政出動の裏で、不必要だったり効果が疑問なものが入ったりしていないか。それを吟味して対応するのが国会の役目だが、残念ながら十分に精査されたとはいい難い。
疑問点は多い。例えば、省エネ基準を満たしたエアコンなどの家電製品の買い替えを促すエコポイント制度。需要の前倒しにすぎないとか、まだ使える製品の大量廃棄がエコと矛盾しないかとの懸念がある。「アニメの殿堂」ともやゆされる国立メディアセンター(仮称)建設の必要性も疑問だ。複数年度にわたる支出を可能にするため四十六の基金に約四兆三千億円を拠出することも使途が不透明になりかねない。借金頼みの財政運営と財政再建との兼ね合いはどうするのか、などである。
非常事態にあるだけに、ここは与野党が論議を通じて問題点を洗い出し、協力しながら修正していくべきではなかったのか。「景気の底割れを防ぐのが最優先」「経済危機を大義名分にした選挙目当てのばらまきだ」など与野党間で応酬はあったが、衆院通過で事実上の成立が決まったこともあって近づく衆院選を意識した攻防に力点が置かれ、問題を残したままでの成立となった。
具体的に動きだす補正予算。景気や国民生活にどう作用するのか、個々の施策の内容や予算の使途、効果などに厳しく目を光らせていきたい。
大相撲時津風部屋の力士暴行死事件で名古屋地裁は、傷害致死罪に問われた元親方に懲役六年(求刑懲役七年)の実刑判決を言い渡した。
共犯とされ執行猶予付き有罪判決が確定した兄弟子よりはるかに重い判断が示された。当然だろう。角界を揺るがし、長い歴史に汚点を残した重大な事件である。指導者としての責任を断罪した判決であり、元親方は重く受け止めねばなるまい。
事件が起きたのは二年前だ。元親方は兄弟子らと共謀、入門間もない力士をビール瓶で殴った後、兄弟子に指示して力士を木の棒で殴るなどした。翌日、ぶつかりげいこと称して約三十分間力士を土俵にたたきつけ、金属バットで殴るなどして多発外傷性ショックで死亡させた。
ぶつかりげいこの違法性などが争点だったが、判決は「ぶつかりげいこは制裁目的」として、「正常なけいこの範囲を明らかに逸脱していた」と指摘。「二日間にわたる暴行が死亡につながった」と暴行と死亡との因果関係も認めた。その上で「絶大な支配力を有する立場にあった被告が犯行を主導した。安易かつ短絡的な暴力で、被害者の人間的尊厳を著しく軽視した犯行」と厳しく断じた。
相撲部屋では、師匠である親方は絶対的な権限を持つ。弟子が親方の命令に逆らえない相撲界の古い体質や閉鎖性が事件の背景にあったことは否めまい。事件はけいこのあり方を見直すきっかけにもなった。
日本相撲協会は事件後、暴行に使われかねない竹刀などをけいこ場から撤去するなどの再発防止策をまとめた。しかし、より重要なのは指導者の意識改革だ。悲劇を二度と繰り返さないためにも、現役の親方らは襟を正し、体質改善と信頼回復に努める必要があろう。
(2009年5月30日掲載)