雇用情勢の悪化に歯止めがかからない。29日発表された4月の有効求人倍率は、過去最低の0・46倍に落ち込んだ。完全失業率(季節調整値)も5・0%と、5年5カ月ぶりに5%台に達した。企業の生産活動には持ち直しの動きも見られるが、減産のスピードを弱めたにすぎず、今後も雇用環境の悪化が進むとの見方が多い。雇用不安は消費の冷え込みや、企業収益の圧迫にもつながるため、本格的な回復に入れない状態が続きかねない。
東京都豊島区のハローワーク池袋にはこの日、雨にもかかわらず、多くの求職者が訪れた。約100台ある職探し用のパソコン端末のほとんどが職探しの人で埋まり、職員が求職相談に応じるブースの前にも列ができた。
職を紹介してもらい、これから面接に向かうという板橋区の40代の男性は「配送業務を長年してきたので、同じ職種を希望している」と話した。だが、この1カ月で5社の面接を受けたものの、採用通知は来なかったという。「ショックだ。企業は非常に厳しく人を選んでいる」。そんな印象があるという。
ハローワーク池袋によると、求職や失業給付金受け取りに同ハローワークを訪れる人は、昨年秋まで1日当たり約2500人だったが、最近は4000人近い。「こんなに多くの人が毎日来るのは初めて」と職員は話す。
昨秋以降、企業の新規求人数は、前年比で毎月3割程度減っている。堀内勝・職業相談部長は「一般事務員の求人倍率は3月で0・11にまで落ち込んだ。一つの求人に100人以上が殺到するケースも多く、厳しい。当面の生活費稼ぎのため、アルバイト希望も増えている」と話す。
好況時には敬遠されがちな外食産業も昨年以降、アルバイトの応募が増えている。牛丼チェーンの松屋フーズによると、昨夏以降、店舗アルバイトの応募者は前年比2~3割増しという。
午前8時半、東京都台東区のハローワーク上野を訪れた男性(40)は「年齢的にも、まだ仕事はあるはず」と言いながら、業務開始を待った。
この男性は、派遣社員として福井県や長野県の電気機器メーカーを転々とし、昨年から川崎市の警備会社で働き始めたが、収入が少なく、アパートの家賃が払えなくなり退社した。所持金が底を突き、今週から上野駅などで路上生活せざるを得なくなったという。「なんで、こんなに厳しくなったのか」。男性はハローワークに入っていった。【森禎行】
国内外3工場を閉鎖し、計1万6000人の人員削減を昨年末から進めてきたソニー。今月14日に、さらに5工場を減らす方針を発表した。うち国内は3工場で、正社員1800人、非正規社員400人が働く。正社員は配置転換か早期退職を選択し、非正規社員は契約満了後は失職する見通しだ。大根田伸行CFO(最高財務責任者)は「まだ拠点削減の案がある」と話し、さらなるリストラを示唆した。
29日発表された4月の鉱工業生産指数が前月比で2カ月連続上昇するなど、昨秋以後、急激に落ち込んだ輸出や生産には改善の兆しが出始めている。政府、日銀はこれを背景に今月、景気判断をそれぞれ上方修正。ただ、政府の表現は「急速な悪化が続いている」を「悪化のテンポが緩やかになっている」に、日銀も「大幅に悪化している」から「悪化のテンポが緩やかになっている」にとどめた。「急降下が続いた最悪期は脱した」(内閣府)ものの、景気の悪化は依然として続いているという判断には変わりがない。
鉱工業生産指数が改善したのも、年末からの在庫調整が進んだ効果が大きく、雇用の下支えには力不足。「増産に戻りつつあるとはいえ、削減した人員を戻すほどの余力はない」(大手電機メーカー)。追加的なリストラは不可避の情勢だ。
野村証券金融経済研究所の木内登英チーフエコノミストは「雇用調整は来年秋ごろまで続く」と指摘。失業率の動きに先行する有効求人倍率が過去最低まで落ち込んだことから「完全失業率は、年明け以降は約6%まで上昇する」(ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎主任研究員)との見方もある。
雇用不安は消費にも影響を与える。「世界経済の悪化が日本経済や消費に与えたインパクトは大きく、改善の見通しは立たない」。29日、西武百貨店札幌店の9月末閉店を発表した平田豊・ミレニアムリテイリング副社長は消費の厳しさを語った。4月の消費支出は過去最長の14カ月連続で前年割れ。消費不振を背景にデフレ懸念も強まり、企業収益を圧迫する悪循環となる懸念もある。【上田宏明】
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■ことば
全国のハローワークに申請があった企業の求人数を求職者数で割った倍率。仕事を探している人1人当たりに、何人分の求人があるかを示す。求人倍率が1より小さい場合は、求人数が求職数より少ないことを意味し、就職が厳しい状態といえる。
毎日新聞 2009年5月30日 東京朝刊