メルフォからメッセージを頂いて、びっくりして戻ってきました。本当に驚きました。でもでもとても嬉しかったです。
言い訳をさせて頂きますと、今日やっと学校の試験が終わり、気の抜けた状態でふえーとしながらメールを開いたら愛情ビンタを受けた次第です。ちょっと腑抜けてました、ごめんなさい。というか、待っててくださる方がいたなんて思いもよらず(以下略)
正直に申し上げますと、「水槽/往路」の管理はタイラさんに一任している状態でして、小雨が管理しているのはこのmemoだけなのです。そしてタイラさんは6月21日に控える小春&ユウジプチオンリーの準備にてんてこまいで、サイトの更新に余力を割けない状態です。じゃあ小雨は何をしていたのかと言いますと、現時点で5本のSSをタイラさんに預けています。きっとプチオンリー終了後にアップされるのではと思うのですが、確かなことはなんとも……(すみません)
非常に申し訳ないのと嬉しいのとでこんがらがっています。とりあえずお詫びとお礼をかねて、タイラさんに預けているうちの一本を以下に添付します。需要がわからないので二翼を貼り付けますが、他にリクエストなどございましたら、またメルフォからビンタください。応援ありがとうございました。
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自由な檻/二翼
まどろみながら思うこと
目の前に彼の顔があったので「おはよう」と言うと「まだ三限が始まったばかりだ」と言われる。それが「おやすみ」に聞こえた俺は再び瞼を閉じて眩しい世界を遮断する。
眠る俺の隣にぴったりと隙間なく落ち着いたらしい獣じみた少年の体温と匂いを存分に感じて、深い安堵に沈み込む。頭を彼の方へ傾げると、彼もまた俺の肩に顔を寄せてきたので、ぱさつく髪を枕にしながら彼を捕まえたような錯覚に酩酊する。
彼がこうして俺のもとへやってくる、それを当然のこととして受け取る。
彼の依存がこころよくて、他の誰にも頼ろうとしない彼の甘えが優越感を煽って、泥濘の依存から抜け出せない。
ラケットを持たない彼はこちらが驚くほど穏やかで無防備で、コートで見かける荒ぶる猛獣とは無縁のようだ。対戦相手を見据える時の、あの支配者然とした眼差し。自分より強い者の存在を、決して許さない狩人の目。奇跡のような傲慢が、彼のテニスにはある。
コートは彼の世界だ。相手は彼の打球を受ける度、そこから叩き出されていく。やがて何処へも行けなくなって、追い詰められたところを、鋭く研ぎ澄まされた爪で裂かれるのだ。逃げ場はない。容赦もない。あるのはただ、呑まれそうな威圧、呑まれたいと願ってしまうほどの気迫。
柔らかな喉笛に牙をたてられる畏怖と高揚は何物にも変え難い愉悦で、何度でも味わいたくて俺はまた、獰猛な獅子のいるコートへと入っていく。
狩ることもあるし、狩られることもある。笑いだしてしまいそうな、震えだしてしまいそうな、泣きだしたいような、叫びだしたいような、気持ち。
彼が目の前にいる、彼と目が合う。張りつく髪を優しく払って、汗の伝うその首に、ありったけの力で手をかけたい。
苦しみは彼を呻かせるに足るだろうか。苦しみの絶頂は、悦びの絶頂に似ている。彼が忘我して俺を見るとき、何を思うだろう。彼の脳に俺の神経を繋げてみたい。そうしたら、この噎せるほどのもどかしさも、消えてなくなるだろうか。どうして俺と彼は別々の生き物なのだろう。彼を理解したいと思う、どんな努力も無駄ならば、いっそのこと一つになりたい。隙間なく重なり合うのに、溶け合うことはなくて。
彼とテニスが出来ないのなら、一つになれても空しいだけだ。
彼と俺が、片翼を持つ二人なのか、ニ翼なのかは微妙な線で、俺が彼に寄り添いたいとか、彼が俺に近づきたいとか、そういうことを常に思っていなければ、成り立たないのかもしれない。
彼はいつでもコートにいる。そこで俺を待っている。俺がどこに行っても、彼は檻の中で戦うことをやめない。たまにふらりと抜け出して、同一人物とは到底信じられない優しさと強さで俺を守りにくる。眠る俺のそばで、彼もまた眠る。一切の警戒をといて、いつでも寝首をかけそうな顔をして。
彼の爪が、相手を切り裂くためにあり、彼の牙が、俺を殺すためにあるのだと信じている。彼が望めば、いくらでもどんな檻からも抜け出せるような気がしていて、だから俺は、彼を閉じ込めるもっとも強固な檻になりたい。
彼は、何処にも行こうとしないのに、何処へでも行けると言う。
俺は、何処にでも行くくせに、何処へも行けないと思っている。