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【社説】

厚労省分割 朝令暮改にあきれ返る

2009年5月30日

 厚生労働省の分割・再編に関する麻生太郎首相の発言は朝令暮改が過ぎる。衆院選の目玉政策としてのアピールを狙っていたとすればお粗末ではないか。首相としての見識、資質、指導力が問われる。

 首相は今月半ば、厚労省を医療、年金、介護を所管する「社会保障省」と、雇用や少子化などを受け持つ「国民生活省」に分割・再編する案を示し、与謝野馨財務・金融・経済財政相に具体案の検討を指示した。

 文部科学省所管の幼稚園と厚労省所管の保育園を一体化し「国民生活省」で一元管理することも念頭に置いていた。

 首相のつくった「安心社会実現会議」で委員の一人が厚労省分割を提案したのを受けてのことだ。

 唐突の指示に政府・与党でも「寝耳に水」と異論が続出した。

 反発の強さに首相は二十八日夜、分割に「最初からこだわっていない」と事実上断念した。「既成事実のごとく話すのはやめたほうがいい」と、まるで報道側に責任があるような口ぶりだった。

 首相は定額給付金などの問題でも前言を翻し、国民の不信を買った。迷走を繰り返す首相に政権担当能力があるのか首をかしげる国民は少なくないだろう。

 厚労省分割を衆院選のマニフェストに盛り込む方針だったというが、それで国民の支持が増えるとでも思っていたのだろうか。

 社会の流れに応じて行政組織を見直すこと自体は間違っていない。厚労省の二〇〇九年度予算は一般歳出の半分近くを占めるなど政府の十二府省の中で突出している。年金、医療、介護のほか、生活保護、少子化・育児、新型インフルエンザに代表される感染症対策、救急医療、雇用対策と、国民生活に直結する問題のほとんどが厚労省の守備範囲に含まれる。

 二〇〇一年の旧厚生、労働省の統合後、機動的な政策運営に欠けることが多く、最近では雇用対策が出遅れるなど、肥大化の弊害が随所に表れている。長期的には分割・再編を考えるべきだろう。

 だが、幼保一元化を求めるなら、例えば医療政策も一元化しなければならない。文科省が医師や看護師の養成と医学教育、総務省が自治体病院、医療制度が厚労省の所管と分かれ、非効率になっているからだ。薬事行政を厚労省から分離させる考えもある。

 分割・再編は、十分な議論を踏まえて長所、短所を見極めながら行うべきである。思いつきですることではない。

 

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