きょうの社説 2009年5月30日

◎七尾前副市長逮捕 入札改革停滞させぬ教訓に
 七尾市の前副市長が市発注工事に絡み、収賄容疑で逮捕された事件は、指名競争入札が 業者間の談合にとどまらず、行政の裁量が働きやすいために汚職の温床にもなりやすい負の側面を浮かび上がらせた。県内では昨年、宝達志水町でも収入役が指名競争入札の業者選考をめぐり収賄容疑で逮捕され、有罪判決を受けている。このような自治体幹部による不正は入札制度の信頼を根底から揺るがすものである。

 入札改革は一般競争入札拡大を柱に進められたが、景気悪化で建設業者の倒産が増える なか、業界配慮の声が強まり、改革は足踏みしているような印象も受ける。全国的に指名競争入札を復活させる動きがあり、県内でも議会から同様の声が挙がっているが、業界保護を優先するあまり、改革が逆戻りしては元も子もない。県や各自治体は入札改革を停滞させないためにも今回の事件を深刻に受け止め、教訓にしてもらいたい。

 逮捕された七尾市前副市長の中畠三雄容疑者は指名入札で便宜を図る見返りとして、市 内の建設業者から現金百万円を受け取った疑いが持たれている。当時は助役で、市の工事請負業者選考委の委員長だった。業者選考の公正さを監視する立場にありながら、特定業者と癒着した責任は極めて重い。

 入札改革では七尾市が二年前の談合事件を受け、一般競争入札の対象を県内で最も低い 予定価格百三十万円以上に拡大し、県や各市町でも段階的な見直しが行われた。だが、県にしても全国知事会が目標とする一千万円以上には届かず、現在は三千万円以上であり、入札改革は道半ばである。

 最近は最低制限価格の引き上げなど、低価格競争が行き過ぎたとして是正する動きも広 がっている。手抜き工事が生じかねないという自治体側の懸念も理解できるが、競争を促す効果とのバランスを慎重に見極める必要がある。

 各自治体は景気対策として公共事業を積み増し、工事の早期発注なども行われている。 地元業者の受け皿を広げる狙いだが、公共事業による景気対策も、適正な入札執行が大前提であることをこの機会に再認識してほしい。

◎新駐日米大使を指名 大統領側近の強みと不安
 新駐日米大使に指名されたジョン・ルース氏は、オバマ大統領の側近中の側近とされ、 大統領に直接電話をできるパイプの太さと、旧来のワシントン政治に染まっていないことが強みであり、不安要素でもある。

 駐日米大使は、上院院内総務を務めたマンスフィールド氏の着任以降、米政界の大物と 言われる人たちの就任が相次いだ。それに比べるとルース氏は見劣りするかもしれないが、大物であるか小物であるか、駐中国大使よりも格上か格下かなどと比較することに、さほど大きな意味はなかろう。

 米国の大使は、大統領の「個人代表」と位置づけられている。そうであれば、気脈の通 じた人物を登用するのがむしろ自然ともいえる。重要なことは、ルース大使の下で、米国の対日外交姿勢に変化が生じるかどうかである。

 戦後間もないころの駐日米大使は職業外交官が中心であり、安全保障関係を得意とする 人が多かった。その後、日本の経済発展とともに、米大使の仕事も経済分野に比重が移った。マンスフィールド氏以降の大物大使の時代は、日米関係の「安定性と重要性」を象徴するような人物が選ばれたとみることもできる。

 ルース氏は、やり手の企業弁護士で実業家でもあり、政治家、官僚、学者というこれま での大使の系譜と異なる。オバマ政権は日米同盟を「アジア政策の礎石」と強調しているが、具体的な政策課題にどう対処するか、まだ明確ではない。政治・外交のキャリアよりも、大統領との個人的な信頼の厚さを優先した民間出身大使の登場で、日本との付き合い方が変わるのかどうか注視したい。

 日本側には、ルース氏の外交経験のなさを心配する声もあるが、日米トップの意思疎通 を図る上で格好の人物である。金融・経済での日米の政策調整を重視する米政権の意図を示す人事とも考えられる。日本では無名のルース氏指名の背景に、これまでの親日・知日派といわれる人たちの影響力の低下があるとすれば、ルース氏を通じた新たな人脈づくりが、日本側の大きな課題といえる。