空中キャンプ

2009-05-29

とりあえずやってるうちにできるようになる

デジタルカメラが普及してから、カメラを趣味にしている人たちの腕前、その全体的なレベルが一気に向上したという話を聞いたことがある。撮った後、すぐに結果を確認できること、デジタルデータなので無制限に撮れるため、たくさんの写真を気がねなく撮っていくらでも練習できることなどがその理由らしい。なるほど。

わたしはこうした「とりあえずやってるうちにできるようになる」といったたぐいの話がすきだ。前準備とか、研修とか、事前の慎重な検討といったことよりは、考え込まずにひとまず現場にでてあれこれやってみる、という姿勢がすきなのだ。もちろん現実はそれほど単純ではなく、トレーニングは重要だし、現場で学んだことをフィードバックさせて、もう一度あらためて学習しなおす必要だってあるのだけれど、なにがともあれいったん経験してみる、というのはけっこうたのしいとおもう。

わたしは友人に美容師が何人かいるのだが、彼らの話を聞くと、美容師は見習い期間がわりあいに長く、そのあいだ、毎日遅くまで残ってトレーニングやミーティングをしているという。終電近くまでカットの練習をすることも多いらしい。現場で髪を切るようになるまで時間がかかるのだ。それとは対局に、千円で髪を切れる床屋さんがあり、行くと10分で散髪が済んでしまう。ひとりあたりの単価が極端に安いので、つまりは従業員の研修や技術向上のためのトレーニングにあまりコストを割けないという事情が予想される。入社から現場デビューまでの期間もかなり早いだろう。

千円、10分ということは、つまりは「それなりにさっぱりさせるんで、細かい注文とかはなしで……」というサービス内容を意味するのだとわたしはおもっていたし、クオリティは下がるものだと考えていた。しかし、千円床屋さんについて紹介した雑誌記事などを読むと、働いている人たちはたいてい、めきめきカットの腕前を上げてしまうらしいのだ。それはそうである。1時間に4人、5人といったお客さんの髪をノンストップで切りつづけていたら、それはひとりでに上手になってしまう。

はっきりとした時間の制限があり(10分以内)、そのあいだにお客さんの要望を聞き、あまり考え込まずにスピーディーに手を動かし──なにしろ10分しかないのだ──できるだけ早く、要望に近いかたちで整え、気持ちよく帰ってもらわないといけない。こうしたルールに沿って仕事をしていけば、黙っていてもどんどん経験値が上がっていくし、さまざまな髪質やヘアスタイルの客、あれこれ注文がうるさい客、「強そうな髪型に」などと抽象的なリクエストする客などとつぎつぎに対面していくため、そこで無数のトライ&エラーがくりかえされ、通常であれば数年かかる経験と学習が、ほんの数か月でできてしまうことになる。

とはいえ、すべての美容室が千円で客の髪を切れるわけもなく、ハイエンドな美容室にしか提供できないクオリティのサービスというものがあるはずだとおもう。だから問題は、若手の子たちが実践的にお客さんの髪を切って経験を積める、見習い修行美容室みたいなものがないことだ、というところにある。そこでわたしからの提案としては、若手の子がどんどん髪を切って技術を上げられるセカンドラインの美容室を、安めのカット料金でつくり、そこでひたすら修行をさせて、技術が上がったらハイエンド美容室にランクアップする、という方法である。そんなことやってる美容室ないのかなーとおもった。なにしろ、どんどんやってるうちに、たいていのことはできるようになるのだ。