【眼光紙背】パナソニックと東芝、補償金拒否の衝撃
2009年05月29日11時00分 / 提供:眼光紙背
MIAUの眼光紙背:第31回
5月8日にメディア各社が報じたように、パナソニックと東芝が、地上アナログチューナーを搭載しないDVD/BDレコーダの価格に私的録画補償金を上乗せしていないことが明らかになった。日本の補償金制度では、消費者がこれを支払うことになっており、メーカーは機器の価格に補償金を上乗せして販売することで、集金の代行をしているという図式になっている。従ってその徴収をしていないということは、払う気はないと考えていいだろう。両社が直接発表したわけではないようだが、正直メーカーが水面下でこれだけの強硬姿勢を取るとは、少々意外である。録画補償金に関しては、経産省と文化庁間の合意で、ダビング10の開始時期の早期決着の代償としてBlu-rayを補償金の対象にすることになっていた。しかしJEITA(社団法人電子情報技術産業協会)のロジックとしては、地上アナログ放送には著作権保護技術がないため、アナログチューナーが付いているレコーダなどについては補償金を支払うが、地上デジタル放送は著作権保護技術がある、したがって補償すべき複製被害は存在しないため補償金は不要である、ということである。二社はこの方針を実践するということのようだ。
これまで補償金に関しては、文化庁の私的録音録画小委員会で議論が続いていたが、委員会はすでに終了。Blu-rayを補償金の対象にするための政令は既に両省庁間で合意しており、この状況下で補償金の徴収を行なわないというのは、かなりの強硬姿勢である。おそらく裁判も視野に入れ、勝てるという目算があるのだろう。
ここまで両社が踏み切った背景には、いわゆる「レコーダ」なる商品の利益率の低さがある。05〜06年ぐらいがDVDレコーダのブームであったわけだが、各社熾烈なシェア争いのために事業の黒字化を後回しにして、ギリギリの低価格で製品を投入した。ソニーですら「スゴ録」時代はなかなか黒字化できなかったし、パイオニア、三洋、ビクターなどは、厳しい経営難にさらされた。この時代に、レコーダの価格相場というのが決まったわけである。
レコーダ事業という視点で行くと、パナソニックと東芝は対照的である。パナソニックはDVDレコーダ時代に機能を絞って低価格路線を勝ち残り、Blu-ray事業に繋いだ。しかしBlu-rayの開発に巨費を投じており、今後はその回収をしなければならない。一方東芝は、DVDレコーダ時代は高機能路線でマニアから絶大な支持を得たが、HD DVDの失敗で次世代DVD事業からこぼれ落ちた。どちらも販売価格を1円でも押さえて勝負したい、シビアな状況であることに変わりはない。
逆に共通点として、両社ともコンテンツ事業を持たないという点がある。東芝は以前「東芝EMI」を抱えていたが、07年に売却が完了した。すなわち喧嘩する相手が自分、という状況ではないという点で、ソニーとは立場が違うわけである。
そのほか現時点でBlu-rayレコーダを製品化しているのはシャープ、三菱電機、パイオニア、日立、ビクターだ。このうち社名を冠したコンテンツ事業を持っているのはビクターぐらいで、それ以外の会社は比較的補償金徴収拒否には乗りやすいと言える。中でも日立のBlu-rayレコーダはパナソニックのOEMであるため、他社よりもう一歩乗りやすいかもしれない。
Blu-rayおよびレコーダへの補償金は、これからどんどん矛盾が広がると予想される。なぜならば、今後は「レコーダ」のようなスタンドアロン製品は、縮小化へ向かうと予想されるからである。例えばシャープはもはやBDドライブをテレビ本体の中に入れてしまっているし、東芝はテレビのIT化を強力に推進しており、現在はUSB接続HDD以外にNASに録画するなど、テレビ+IT機器という組み合わせ路線に進んでいる。
こうなってくると、どこまでが録画機器なのかという定義そのものが不明だ。いくら法で網をかけようとしても、到底追いきれるようなものではない。個人的な見解としては、もはや機器を特定して補償金の対象にするのは難しいのではないかと思われる。また消費者が録画保存のたびに補償金を払わされるという「なーんか悪いことしてる感」がつきまとう限り、録画保存という行為そのものが萎縮してしまうだろう。
近視的な文化保護によって、今度は民間の「録画文化」が滅ぼされようとしているというのが、今の状況なのかもしれない。コンテンツを利用することもまた一つの文化であることは、本当に考えなくてもいいのだろうか。
(小寺信良/MIAU代表理事、ジャーナリスト)
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