現代美術個展 GALLERY 2


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アートニュース


西澤諭志 展
―写真/絶景 そこにあるもの―

会期 : 2009年5月1日(金)〜5月27日(水)

「まなざしのちから」

突然真っ白な会場に導かれた。そこはまばゆく、壁に少し横長の窓がいくつかあるのかと思えた瞬間、それらは、大きな写真が天井のレールから吊るされある奇妙なパースペクティブの光景だった。それもそのはず、そこは、撮影用に床と壁面が曲線でつながった、写真スタジオでの、写真の展示だった。
ひとつひとつの窓には、投げ出された赤や青の連結式のソファ、ポリバケツや黄色いモップが扉の隙間から覗いている掃除用具ロッカー、黒い樹脂の円形模様のエンボス床のアップなど、西澤諭志の「絶景」というタイトルの写真作品群だった。

絶=漢詩体の一つである「絶句」の略。絶句=漢詩体の一つ。起・承・転・結の四句からなるもの。絶景=すばらしくよいけしき。
西澤諭志の卒業制作の作品のタイトルは「絶景」。1.8m×2mのインクジェットプリントの写真8点の前で絶句、いや絶視と言えばいいのか。若い学生が「絶景」と命名することへのかすかな違和をもって凝視しはじめ、没頭した。
2008年2月、東北芸術工科大学の卒業/修了研究制作展の発表会場。写されてある窓の中には、まさにそこ、ここ、大学内の光景や公共建築やオフィスに見られるさまざまな部位や什器がクローズアップで写っている。 西澤が切り取ったシーンは配置変えの途中なのか、どこにでもある道具や什器が用途を宙吊りされたまま置かれてあり、ガランとした人の気配のない光景の、モノや事態もまた途方にくれながら粛然としていて、だから強く迫ってくる。
ふだん見慣れた建物内部や道具のほとんどが、蛍光灯の強く均質な光に照らされて、影をもたない切り絵のように写りこんでいる。被写体の小気味良いほどの素っ気なさは、無音が奏でるノイズの旋律を捕まえようとする聴覚のように、視覚が色の粒子をとらえて、感応の水位のぎりぎりまで盛り上がってくる。カーペット床の金属の配線孔も、ビニールレザーの丸椅子にもブルーのポリバケツにも感応する。
西澤諭志の、よく知っている見慣れたものへ注ぐまなざしには、彼自身に内在する反・遍在的視覚とでも呼びたい、万物への硬質で強靭な博愛的偏愛がある。写真を学びながら、写真がとらえる事件や物語がめった起きないと思われる自分の日常を、ただ見つめること、きちんと見つめ続けることにしたのだ。

大判の実物大に近い素っ気ないモチーフのこれらの作品には、写真というジャンル、あるいは表現という行為、生きるという実際のあらゆる場面に蔓延する、無視と無関心への強い放射がある。白いタイル壁、鮮やかなグリーンに塗装された金属扉や窓枠をまっすぐ見つめると、そこに満ちてくる気配がある。
西澤諭志の「星座や地図」では、自分の持ち物ぜんぶを丹念に写しとっているが、そこにも同じように流れているのは、まなざしのちからで、あるものすべてを立ち上がらせてみせるちからだ。
今展は西澤諭志の東京での初個展だ。まなざしの内省の圧倒的なちからが見えてくる。

入澤ユカ(INAXギャラリー顧問)

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。掲載論文をご紹介します。



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