残る焦点はひとつである。総額14兆円の財政支出を盛り込んだ09年度補正予算が成立した。政府が今国会で打ち出した一連の経済対策はヤマを越え、与野党の関心は議員の任期満了まで100日余となった衆院選の実施時期に絞られている。
補正予算関連法案など残る重要法案の審議に民主党が引き延ばし戦術を取らない限り、国会は来月に重要案件の処理を終える。麻生太郎首相が衆院解散のフリーハンドを確保できるよう与党は会期を大幅に延長する方針だが、もはや時間稼ぎをする局面ではあるまい。首相は主要案件の決着と同時に衆院を解散し、各党は政権公約の国民への提示に全力を注ぐべきである。
首相が「第4段ロケット」と銘打った景気対策を締めくくる補正予算が何とか成立した。本来は政府・与党が安堵(あんど)する場面だろうが「こんなはずでは」との思いを幹部の多くが抱いているのではないか。
政府が鳴り物入りでアピールした補正予算は46基金へ4兆円もの交付や、予算額117億円の国立メディア芸術総合センター構想などが野党から厳しく追及された。なけなしの財源の投入に値する中身だったかが問われる展開となった。
小沢一郎前代表の公設秘書起訴をめぐり民主党の攻勢がいったん弱まった状況も変化している。鳩山由紀夫代表就任を受けた毎日新聞の世論調査では首相にふさわしい人に麻生首相よりも鳩山代表を挙げる人が10ポイント以上上回った。
7月には主要国首脳会議、東京都議選などの政治日程も控える。与党内にはできるだけ選挙時期を延ばすことで、勝機をうかがう意見が強いのかもしれない。とはいえ、そもそも政権発足と同時に国民の審判を仰ぐべきだった麻生内閣だ。仮に衆院議員の任期終了間際に衆院を解散しても、首相が民意を問う意気込みと迫力は国民に伝わるまい。
補正予算関連法案、海賊対処法案、公文書管理法案などが決着すれば今国会は事実上、役割を終える。内閣人事局を置く国家公務員制度改革関連法案が残るが、「政と官」の問題は衆院選で与野党が競うべきテーマだ。選挙を経ない政権の力には限界がある。延長国会をずるずる続けても、多くの国民の目には時間稼ぎとしか映るまい。一方、民主党もいたずらに残る法案の審議引き延ばしをすべきではない。衆院解散の環境を整えるべきだろう。
国民は今、自民、民主両党のどちらを中心とする政権に政策遂行能力があるかを目を凝らして見極めている。与野党が優先すべきは判断材料を国民に示すことだ。そのゴングを鳴らすことは、首相の責務である。
毎日新聞 2009年5月30日 東京朝刊