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社説:厚労省分割迷走 軽過ぎる首相の言動

 厚生労働省の分割・再編をめぐる麻生太郎首相の発言には驚いた。首相が作った「安心社会実現会議」で渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長兼主筆が提唱した分割論を受けて、「社会保障省」と「国民生活省」に分割する自らの案を示して、検討を指示したばかり。ところが、党や閣内からの反対が強まると、「最初からこだわっていない」と釈明した。今週から協議を始めていた関係閣僚ははしごをはずされた格好だ。

 言うまでもなく、首相の発言は重い。検討を指示する以上、行政システムへの理念がなければならず、こだわりも必要だ。「こだわっていない」などと発言すること自体、理解に苦しむ。トップとしての立場が分かっていない、と批判されても反論できないはずだ。軽率のそしりは免れない。

 消えた年金や後期高齢者医療制度などで集中批判を浴びた厚労省を分割・再編する案を掲げて民主党との対立軸を作り、人気取りを図る狙いがあったとすれば、本末転倒だ。

 01年の省庁再編から8年、組織が巨大化し功罪が出てきたことは確かだが、それは厚労省だけではない。なぜ、麻生首相が厚労省の分割・再編を指示したのかがよく分からない。省庁の再々編は国土交通省や総務省など、全省庁を含めて検討し、全体像を描いた上で進めないと、混乱するだけだ。

 麻生首相が再編論をトーンダウンさせたのは政府・与党内から反発や慎重論が強まったからだ。文部科学省が所管する幼稚園と厚労省所管の保育所の一元化も含めた検討を指示したものの、支持団体の利害がからむ問題ということもあり、自民党内から反論や批判が噴き出した。各議員が、それぞれ応援を買って出ることも計算せず、総選挙前に拙速で進めようとしたことで墓穴を掘った。この結果、麻生首相の指導力が失われ、求心力が低下することは避けられない。

 省庁再編を進めようとするなら、まずは首相がリーダーシップを発揮し、国民の声にも耳を傾けてコンセンサスを作り上げるべきだ。

 分割をめぐり「安心社会実現会議」でも議論があった。薬害肝炎全国原告団の代表が「一委員が提案した厚労省分割が報道され、衆院選のパフォーマンスだとの思惑が広がり残念だ」と発言した。これに対して渡辺氏が「党利党略に新聞社の主筆たる者が便乗して振り回されるようなことを言われた。取り消していただきたい」と反論する一幕もあった。

 問われているのは麻生首相のリーダーシップである。首相は迷走を反省し国のかたちを決める省庁再編問題の抜本議論をやり直すべきだ。

毎日新聞 2009年5月30日 東京朝刊

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