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社説

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失業率5%―雇用創出に官民の知恵を

 雇用情勢が急速に悪化している。4月の労働力調査では、完全失業率(季節調整値)が5.0%で、5年5カ月ぶりに5%台になった。このままだと過去最悪の5.5%を超え、6%台にまで悪化するとの見方も専門家の間にある。失業の増加に歯止めをかけるためには、政府が全力で雇用創出や就職支援に取り組む必要がある。

 悪化のスピードも深刻だ。失業率はここ3カ月で0.9ポイント上昇した。求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率は過去最低だった10年前に並んだ。この1年は、戦後最悪のスピードで落ちた。正社員の求人倍率は過去最悪の0.27倍だ。新規求人数を産業別にみても、製造業が昨年同月比5割以上落ち込んだほか、情報通信が4割、運輸が3割強も減っている。

 失業率の悪化にブレーキをかけようと、雇用対策などを柱とする総額15兆円余りの経済危機対策を盛り込んだ09年度補正予算がきのう成立した。一連の対策によって3年間で計390万人の雇用が守られるという。

 雇用対策として政府が力を入れているのが雇用調整助成金の拡充だ。生産調整のため一時休業させる従業員に支払う手当などを国が企業に助成する。その比率を中小企業については9割に引き上げるとともに、対象人員の増加に合わせた。

 また、「緊急人材育成・再就職支援事業」では、失職していても雇用保険の対象にならない人たちが職業訓練を受けながら生活できるよう、生活費を保障することにした。さらに、「雇用創出対策」として自治体が森林整備や介護補助などの雇用機会を中高年に提供するための財源を盛り込んだ。

 予算の執行には時間がかかりがちだが、対策が速やかに実施されるよう、政府と企業、自治体がこれまで以上に力を合わせる必要がある。

 同時に、人手不足が続いている医療や介護などの福祉分野については、就職相談の機会を増やすなど、取り組みを強めることによって、雇用をさらに生み出すことができるはずだ。

 これまで製造業にいた人たちが急にこれらの分野の仕事に就くのは、易しいことではない。研修や職業訓練の機会を幅広く設けたり、働きながら介護職の資格がとれるようにしたりすべきである。待遇の改善も重要な課題だ。

 全産業平均に比べてかなり低い介護職員の給与については、3年間に4千億円を助成して改善することになったが、長期的な給与アップにつなげるためには政府支出の継続や介護保険制度の大幅な見直しが避けられない。

 全国545カ所のハローワークには職を求める人々が長蛇の列をつくっている。大失業時代としないために、まだまだやれることはある。もっと官民の知恵をより合わせたい。

元親方実刑―師匠の教育が急がれる

 17歳の力士がけいこ場でのすさまじい暴力で命を落とした。事件は、角界の歴史に大きな汚点として残る。

 大相撲の力士暴行死事件で、名古屋地裁は前親方に懲役6年の実刑判決を言い渡した。指導的立場にある親方が暴行を主導したと断罪された。相撲界は重く受け止めねばならない。

 一昨年の事件後、日本相撲協会は文部科学省の指導もあり、暴力の一掃に踏み出した。有識者に参加を求めて再発防止策を検討する委員会をつくり、けいこ場から竹刀や棒を撤去するなどの手だてを打った。

 また、親方しか理事になれない閉鎖的なしくみを変え、外部理事2人、監事1人を新たに加えた。議決権のある理事を協会外から招くのは、戦後初めてのことだった。

 角界に伝わる言葉に「『むりへんにげんこつ』と書いて兄弟子と読む」がある。この言葉に象徴される体質が、事件後の取り組みによって変わることが期待された。ところが、負の連鎖は止まらなかった。

 昨年5月、十両力士が若手の頭を調理器具で殴り、けがを負わせたことがわかった。理事を務める親方が弟子を竹刀で殴打したことも明らかになる。8月にはロシア出身の力士が大麻所持の疑いで逮捕された。協会の検査で2力士にも大麻の陽性反応が出た。理事長が北の湖親方から武蔵川親方に代わり、引き締めを誓ったが、今年1月にも日本人力士の大麻事件が発覚した。

 気になるのは、部屋をつかさどる親方の認識の甘さだ。

 「弟子がいけないことをしたら、しごくのは当たり前」。昨春、竹刀で暴力をふるった親方は当初、居直った。一連の不祥事も、いまだに「個人に起因する問題」ととらえる危機感の希薄な親方が、実は少なくない。

 部屋持ちの親方は野球ならオーナー兼監督、スカウトも寮長も兼ねるような存在だ。部屋ごとに独自の指導法を受け継いできた。それは部屋の個性を育む半面、閉鎖性にもつながった。

 角界を志す若者は先細り傾向だ。毎年多数の受験がある3月の新弟子検査で、今年は41人と近年では最も少なかった。不祥事の影響がない、とはいえないだろう。その一方で、異文化の中で育った外国人力士も増えている。

 問題の芽を摘むためにも、まず親方こそが教育を受けるべきではないか。「師匠会を指導者教育の場に」という再発防止策は事実上機能していない。

 協会は税制面で優遇される公益法人だ。「相撲道の維持発展と国民の心身の向上に寄与すること」を目的にうたう。部屋任せにせず、協会が明確なビジョンを掲げて変革を続けることだ。

 土俵外の不祥事に振り回され続け、徳俵いっぱいの角界。力のこもった土俵でこそ、ファンを沸かせてほしい。

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