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当マイクロフォン 三田完さん

[掲載]2008年8月10日

  • [文]丸山玄則 [写真]高波淳

写真作家の三田完さん=東京都千代田区、高波淳撮影

■「人の業」を詩情込めて

 「中西節」と呼ばれた独特のゆったりとした語り口で知られた元NHKアナウンサーの中西龍(りょう)。NHKで歌謡番組を手がけていた三田完(みたかん)さんにとって、「個性を貫いた語りの技術は20代のころからのあこがれ。まぶしいような見上げる先輩でした」。今年で没後10年。綿密な取材をもとに哀切さと詩情に満ちたフィクションにしたてた。

 NHKラジオの「にっぽんのメロディー」などでおなじみのしんみりした語り口とは裏腹に、破天荒な人生だった。初任地の熊本放送局に新橋芸者だった妻を伴って現れ、遊郭に入り浸り、土地土地の女性と情を通わせ、地方局を転々とした。小説のなかで、富山の僧侶が語りかけた言葉に、中西の人生が集約されている。「人間は生きているうちに、たっぷり業を積んでおかんと」

 三田さんは3年前から当時を知る関係者を訪ね歩き、中西の業に向き合ってきた。「皆さん、はた迷惑だけど懐かしくてかけがえのない思い出をもっている。平成の時代に失われつつあるものを書きとどめておきたかった」。執筆を終え、「人の業を書いたせいで、思った以上に魂を吸い取られた」と笑う。

 NHKを退局後、番組制作会社で音楽番組などを手がけながら、執筆活動を続ける。昭和初期の「句会」を描いた『俳風三麗花』は07年7月の直木賞を最後まで争った。演出家・作家の久世光彦にあこがれて小説を書き始め、作詞家・作家の阿久悠の仕事を手伝ってきたことが、「昭和」を濃厚に感じさせる作風を形作っている。

 最近「昭和」を強く感じたのは、黒人演歌歌手のジェロさんに会った時。「抑揚のない低い声を久しぶりに聞いた。いまの日本にはない、中西さんの語りの世界を感じました」

表紙画像

当マイクロフォン

著者:三田 完

出版社:角川グループパブリッシング   価格:¥ 1,785

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俳風三麗花

著者:三田 完

出版社:文藝春秋   価格:¥ 2,300

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