原爆症認定訴訟の東京高裁判決が、国の新基準で認められていなかった原告九人を新たに原爆症と認定し、新基準の対象外だった肝機能障害などの請求も認めた。国の現行基準の不備をあらためて指摘したものであり、一連の集団訴訟で国は十八連敗となった。
政府は、今回の判決を待って本格検討を進めるとしてきた。原告の全員救済を含めた問題解決へ今度こそ踏み出すべきだ。
控訴審では、原爆症の認定申請を却下された東京都と茨城県の被爆者三十人が国に処分取り消しと損害賠償を求めていた。
判決は判断の前提として、審査方針の線量評価は残留放射線、内部被ばくを過小評価する危険があるため是認できず、爆心地からの距離などによって発症リスクを数値化した原因確率は正確性に問題があるとした。
この観点から、国が昨年四月に導入した新基準では「積極認定」の対象外だった肝機能障害、C型慢性肝炎を放射線起因と認定。甲状腺機能低下症も自己免疫性のあるなしにかかわらず認定できると結論づけた。
国家賠償請求は棄却されたものの、これで一審勝訴の原告二十一人を含めて二十九人が原爆症と認定されたことになる。
二〇〇三年以降の一連の集団訴訟で国の敗訴が続いている。今年三月には、広島地裁が広島第二陣訴訟の判決で、厚生労働相は職務上の注意義務を尽くさず漫然と認定申請を却下したとして初めて国家賠償を命じた。
原告側にとって完全勝訴に近い今回の判決は、国の姿勢に対して常に先行してきた司法判断の集大成ともいえよう。
言い換えれば、医学的知見や過去の基準から細分化した適用方針にこだわるよりも、国家が補償するという観点から、被爆者援護法を適用して疑わしきは救済するよう、正面から指摘したといっていいだろう。
判決を受けて河村建夫官房長官は「一審よりも(認定が)広くなっており、一つの契機にする必要がある」と早期解決に向けて動きを加速する意向を表明した。自民、公明両党のプロジェクトチームも、舛添要一厚労相に対し、敗訴原告も救済するなど訴訟の一括解決に向けた政治決断をするよう勧告した。
今回の裁判では、原告のうち提訴後に十四人が亡くなり、遺族らが訴訟を引き継いでいる。被爆者の高齢化はさらに進む。国は被爆者救済に重点を置いた新たな基準をつくり、政治判断で速やかに問題を解決しなければならない。
米自動車最大手ゼネラル・モーターズ(GM)は債務の株式化による債務圧縮計画に関し、債権者の同意が目標を大きく下回ったと発表した。計画は暗礁に乗り上げ、日本の民事再生法に相当する連邦破産法一一条適用の可能性が高まっている。
GMは約二百七十億ドル(約二兆五千七百億円)の債務を約九割圧縮したいとし、金額ベースで九割に相当する債権者の同意を目指していた。
GMの計画で再建後のGM株の約10%を保有する債権者は、最大20%取得する全米自動車労働組合(UAW)が「優遇されすぎ」と反発していた。また、GMの社債を保有する銀行や年金基金は、破綻(はたん)の場合も補償を受けられる保険契約を行っている。債務削減に応じない方がより有利とされ、この点も影響したようだ。米政府が定めた六月一日の期限までに事態打開は困難で、政府やGMは破産法適用へ準備を進めるとみられる。
相前後してGM欧州がドイツ子会社オペルのGMからの完全分離を決めた。破綻処理に伴いこうしたリストラ策が次々にとられるとみられ、再建の過程でGMが一段の生産縮小を迫られることは間違いなかろう。
日本の部品メーカーなどへの影響が懸念される。帝国データバンクによれば、GMが破綻した場合、日本企業百二社に製品納入代金の焦げ付きなどで不良債権発生の恐れがあるという。売上規模が十億円未満の中小企業も数多く含まれる。こうした企業には経営そのものへの打撃となろう。もちろん、影響は日本だけでなく世界に及ぶ。
世界経済はわずかに明るさが見え始めたところだ。部品メーカーの支援制度なども設けた米政府としては、できるだけ衝撃度の小さいGM問題の決着の仕方を探ってもらいたい。
(2009年5月29日掲載)