嫌われる上司の共通点「事なかれ主義、陰険、保身」
現実の上司(中間管理職)は部下からどのように見られているのであろうか。
立教大学名誉教授 松井賚夫・東京国際大学教授 角山 剛・成城大学教授 都築幸恵=文 ライヴ・アート=図版作成
【部下からの信頼が篤い上司とは】
●仕事に精通し部下の力になる
リーダーシップの「パス・ゴール理論」path-goal theory(*3)では、上司の役割は、明確な手段・方法を示すことによって部下の目標達成を助けることと考えられている。これはリーダーシップの中心的機能に関わるもので、部下の信頼感との間にはきわめて強い相関関係が見られ、この条件で評価が高い上司ほど、部下からの信頼が篤かった。こうした上司とは、具体的には、統率力・指導力にすぐれた上司、判断や指示が的確で部下の仕事を成功に導く上司、能力に応じて仕事を部下に任せる上司、部下が困ったときには力になってやり、社内の圧力から守ることができる上司であった。
●誠実・公正に部下に対応する
職場での上司と部下の関係は、権限に基づく上下の関係であるが、同時に、人間と人間の関係でもある。したがって部下から見て上司が誠実・公正な人間と感じられることと、その上司への信頼感との間には当然ながら高い相関関係があった。心理学者の三隅二不二(じゅうじ)は、リーダーシップの働きをP(パフォーマンス:課題遂行)機能とM(メンテナンス:集団維持)機能の2つに大別したが(*4)、誠実・公正な対応は、このM機能に含まれるものといえよう。部下から見た誠実・公正な上司とは、具体的には、部下の言うことに真剣に耳を傾ける上司、部下との約束や秘密を守り、部下を裏切ることがない上司、部下を公正に評価する上司、などである。この「公正さ」は、こんにちのように正社員、派遣社員、アルバイトなど、身分・立場が異なる部下たちを統括する上司にとってはとりわけ重要であろう。上司は、何事に対しても一貫した態度をとるべきで、相手の身分・立場によって態度や意見が変わるようでは、すべての部下からの信頼や協力を得ることはできないであろう。
●オープンで率直である
上司から評価される立場にある部下は、上司が「なにか腹に一物ある」「思っていることを隠している」と感じるようでは、安心して仕事はできない。自分の考えを率直に表現するオープンな上司に部下からの信頼が集まるのはごく当然である。自分の考えをオープンに言ってくれる上司、聞き心地の良いことだけではなく、悪いこともストレートに言ってくれる上司のもとなら部下も安心して働ける。
アメリカの心理学者J・カラン(Curran)らによると、自己開示度(self-disclosure)が高く、自分の考えや感じていることを率直に伝える度合いが高いリーダーほどメンバーからの好感度が高い傾向があった(*5)。
松井 賚夫
立教大学・駿河台大学名誉教授
まつい・たまお●東京大学文学部卒。人事院勤務後、明治、立教、駿河台大学で産業心理学を講ずる。リーダーシップ、モチベーション、女性のキャリア発達について多くの研究を内外の学術雑誌に発表。著書『リーダーシップ』『モチベーション』。
角山 剛
東京国際大学教授
かくやま・たかし●東京国際大学人間社会学部教授 立教大学大学院修了。立教大学助手を経て、国際商科大学(現東京国際大学)講師、現在にいたる。産業・組織心理学会会長。専門はワークモチベーション研究。著書『組織・職務と人間行動』『産業・組織心理学』『変革時代のリーダーシップ』(いずれも共著)など多数。
都築 幸恵
成城大学教授
つづき・ゆきえ●成城大学社会イノベーション学部教授 コロンビア大学大学院博士課程(カウンセリング心理学専攻)修了。Ed.D(教育学博士)。パーソナリティ心理学、キャリア心理学等の分野で多くの研究を内外の学術雑誌に発表。著書『すぐに役立つ 教師のための心理学講座』、訳書『スーパーカップル症候群』『いじめ こうすれば防げる ノルウェーにおける成功例』など。
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