花粉交配用のミツバチ不足に対して、国が動き始めた。みつ源植物の作付け、女王バチの増殖などの緊急支援事業を含む補正予算案を参院で審議中だ。支援事業が一刻も早く効果を出すには、効率一辺倒だったミツバチの利用法を見直し、海外に頼らない女王バチの確保、さらに自然生態系にまで監視の目を広げることが肝心だ。
全国に広がるミツバチ減少について、農水省が調査した結果、花粉交配に活躍するセイヨウミツバチの不足は21都県に広がっていた。イチゴ、メロン、スイカ、サクランボの産地だ。果物の収量が減ったり、イチゴの授粉失敗で奇形果が発生したりする影響が出ており、生産費が上昇して農家の経営にも支障を及ぼしている。
ミツバチ不足は昨年秋ころから表面化した。要因の一つに女王バチの輸入停止が挙げられる。交配用に養蜂(ようほう)家が園芸農家に供給する際、蜂群を分割するためには女王バチが不可欠で、輸入に頼ってきた。ところが、最大供給国のオーストラリアからのミツバチに伝染病が見つかり2007年11月から輸入が止まった。女王バチの増殖は養蜂家であれば難しくはない。今回の緊急事業では増殖機材への支援を準備している。国内での女王バチ自賄い体制を確立すべきだ。
このほかの要因として養蜂家が指摘するのが、水田のカメムシ防除に使うネオニコチノイド系農薬だ。人体やクモ類に優しいということでよく使われるが、栄養源となる花の少ない夏に、稲の花粉に集まるミツバチに影響を与えているとの報告もある。ミツバチの大量死が問題になったフランス、ドイツ、イタリアではネオニコチノイド系農薬が既に禁止されている。
これまでの利用法にも問題がある。園芸ハウス内で使うミツバチは、高湿度、薬剤、栄養源不足の中で働き体力が消耗、授粉期が終われば焼却処分というのが一般的だ。“使い捨て資材”という発想の転換が園芸農家に必要である。地元の養蜂家から巣箱を借り、ミツバチの健康管理にも配慮する優しさが欲しい。
セイヨウミツバチの代替として在来のマメコバチやニホンミツバチを増殖して花粉交配に使う農家もある。利用法を含めその技術をどんどん広めていくべきだ。養蜂家と園芸農家が一体となって休耕田にレンゲや菜の花、ヒマワリといったみつ源を植えることも進めてほしい。水田フル活用にも結び付く。
問題はミツバチの減少だけではない。「赤トンボを見なくなった」との声を農家から聞く。生態系に異変が起きているのではないか心配だ。ミツバチ不足は、蜂群の危機と同時に人間社会への警告でもある。一度、生態系が壊れると修復は難しい。環境省も含めた、持続可能な養蜂政策を国家プロジェクトとして構築する必要がある。