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【社説】

原爆症認定 見直しも救済も急げ

2009年5月29日

 東京高裁も国の基準よりも広く原爆症を認めた。十八連敗となった国は基準見直しを迫られている。認定拡充は当然だが、高齢となって病気で苦しんでいる被爆者の救済にはスピードが欠かせない。

 原爆症認定却下処分を不服とした被爆者の集団訴訟で、先の大阪高裁判決は国が認めなかった四人を原爆症とする内容だった。二十八日の東京高裁判決も新たに九人を認定した。控訴審に入っても国の連敗は続く。

 地裁も高裁も判断ははっきりしている。東京高裁判決を受けて河村建夫官房長官が認定基準見直しの検討を表明したのは当然だ。

 被爆者は高齢者が多く、裁判だけでなく時間とも闘っている。救済に一刻の猶予も許されない。

 広島、長崎の被爆者は二十五万人余りにのぼるが、原爆症と認定されたのは五千人程度だ。基準のハードルが極めて高く、認められなかった三百六人が二〇〇三年四月から各地裁に提訴した。

 六地裁で立て続けに敗訴した段階で当時の安倍晋三首相が「基準を見直す」と発言し、昨年四月からは新基準に切り替わった。

 新基準は、爆心地からの距離など一定の条件を満たせば、がんなどの五疾病を積極的に認める。

 旧基準と比べると大幅な改善だが、肝機能障害や甲状腺機能低下症などは対象から外された。依然として被ばく放射線量にこだわった厳格な審査が続いている。新基準になってもハードルは高い。

 原爆症と認められれば月十三万七千円の医療特別手当が支給される。国は財政支出を抑えたいし、被爆者援護を拡充すれば、ほかの戦争被害の補償も考慮しなければならなくなる事情もあろう。

 判決の積み重ねにより原爆症と認められる範囲は見えている。国は被爆者団体の意見を聞きながら新基準をさらに広げた「新・新基準」を早急に設けるべきだ。

 基準見直しとともに、認定審査のスピードを上げなくてはならない。現在、八千人余りが審査結果待ちという。申請から三年以上も待っている人もいる。認定まで時間がかかっては被爆者に新たな苦しみをもたらす。審査制度の見直しも避けられない。

 北朝鮮が核実験を行った際、政府は「断じて容認できない」と厳しく非難した。原爆投下から六十四年を迎える。唯一の被爆国として原爆被害の実態を国際社会に訴え続けながら、被爆した国民をいまだに救済できないのは、恥ずかしく、悲しいことではないか。

 

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