Klugクルーク 為替、海外投資、ヘッジファンドでハイリターンを得るためのニュース、レポート、コラムを掲載
  • Klugクルーク
  • ETFクルーク
  • CFDクルーク
  • ヘッジファンドクルーク
三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第一回 日本の財政問題に関するマスメディアのミスリード(3/3)

(2/3の続き)

 そもそも、財務省やマスメディアは、日本政府の借金の増加を叩くのが大好きだが、実のところ世界的に見れば、日本の公的債務(政府の借金)増加額は、特に突出して酷いというわけではないのだ。






【図1-2 G7各国の政府の借金 1980年=100】20090526_01_02.gif
出典:IMF


 1980年を100とし、G7諸国における政府の借金の増加ペースを比較すると、最悪なのがフランスとイタリアの二カ国になる。日本はその他の国々と三位グループを形成しているに過ぎない。

 そもそも、日本政府の財政が、本当にマスメディアが言うほど悪化しているのであれば、国債金利が世界最低である事実の説明がつかない。国債金利が低いとは、すなわち金融市場に国債を買うマネーが溢れており、国債価格が「高く」なっていることを意味しているのである。


【図1-3 主要国の長期国債(十年物)金利 1998年-2008年】20090526_01_03.gif
出典:日本銀行、FRB、イングランド銀行、韓国銀行、スイス国立銀行のデータから筆者作成


 ちなみに、国債金利が日本よりも高いアメリカ国債であるが、なぜか各格付け機関からAAA(最高格付け)と評価されている。金利が低い日本国債の方が、金利が高いアメリカ国債よりも格付けが低いのである。まさに「謎」としか表現しようがない。
 格付けといえば、先日、最大手格付け機関のムーディーズが、日本国債について格上げを行った。ムーディーズは日本国債の格付けについて、従来のAa3からAa2へと二段階引き上げたのである。

 ムーディーズは今回の格上げについて、
「多額の国内貯蓄、国内の金融機関及び機関投資家の強い国内投資志向、比較的低水準にある外国人投資家の国債保有比率、ならびに日本の1兆ドルに上る外貨準備高」が影響しており、2009年に発行されるであろう過去最大規模の国債に関しても、
「市場は吸収できる」
 とコメントしている。

 これに、毎日新聞が噛み付いた。毎日新聞はムーディーズの日本国債格上げを受け、即座に、

『日本国債:ムーディーズが1段格上げ 増発控え、市場に戸惑い』
http://mainichi.jp/life/today/news/20090519ddm008020016000c.html

 なる、心底から失笑すべき記事を書き、
「財政悪化を懸念する声が強い市場では、発表前には格下げが予想されていたほど」
 などと、記事中で吼えていた。

 しかし、まさにムーディーズのコメント通り、日本には多額の国内貯蓄が存在(国家のバランスシートにおける「家計の資産」)し、銀行や年金が率先して国債を購入しており、外国人の国債保有率は高々5%に過ぎない。また、日本国債のほぼ100%は、自国通貨たる円建てなのだ。さらに、日本国債の金利は、世界最低を長年維持して続けているわけである。

 この状況でムーディーズが日本国債の格下げなどできるはずがなく、そもそも「日本国債の格下げ」を予想していた「市場」など、この世のどこにも存在していない。日本国債の格下げを予想、と言うよりも期待していたのは、毎日新聞の記者御本人のみだろう。


 ムーディーズのコメント通り、日本政府は09年に過去最大規模の国債発行を予定している。そして金利がここまで低空飛行を続ける限り、特に何の問題もなく発行していくことになるだろう。

 なぜ、日本政府は順調に国債を発行できるのか。
 なぜ、ムーディーズが日本国債を引き上げたのか。
 これらの疑問について、今後、数回に渡り解説していきたい。

Ads by Google

Ads by Google

クルクるアンケート

05月29日更新

新規執筆者の中で、実際にあって話してみたいのは?





みんなの回答を見る

三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

ページトップへ戻る