そもそも、財務省やマスメディアは、日本政府の借金の増加を叩くのが大好きだが、実のところ世界的に見れば、日本の公的債務(政府の借金)増加額は、特に突出して酷いというわけではないのだ。
【図1-2 G7各国の政府の借金 1980年=100】
出典:IMF
1980年を100とし、G7諸国における政府の借金の増加ペースを比較すると、最悪なのがフランスとイタリアの二カ国になる。日本はその他の国々と三位グループを形成しているに過ぎない。
そもそも、日本政府の財政が、本当にマスメディアが言うほど悪化しているのであれば、国債金利が世界最低である事実の説明がつかない。国債金利が低いとは、すなわち金融市場に国債を買うマネーが溢れており、国債価格が「高く」なっていることを意味しているのである。
【図1-3 主要国の長期国債(十年物)金利 1998年-2008年】
出典:日本銀行、FRB、イングランド銀行、韓国銀行、スイス国立銀行のデータから筆者作成
ちなみに、国債金利が日本よりも高いアメリカ国債であるが、なぜか各格付け機関からAAA(最高格付け)と評価されている。金利が低い日本国債の方が、金利が高いアメリカ国債よりも格付けが低いのである。まさに「謎」としか表現しようがない。
格付けといえば、先日、最大手格付け機関のムーディーズが、日本国債について格上げを行った。ムーディーズは日本国債の格付けについて、従来のAa3からAa2へと二段階引き上げたのである。
ムーディーズは今回の格上げについて、
「多額の国内貯蓄、国内の金融機関及び機関投資家の強い国内投資志向、比較的低水準にある外国人投資家の国債保有比率、ならびに日本の1兆ドルに上る外貨準備高」が影響しており、2009年に発行されるであろう過去最大規模の国債に関しても、
「市場は吸収できる」
とコメントしている。
これに、毎日新聞が噛み付いた。毎日新聞はムーディーズの日本国債格上げを受け、即座に、
『日本国債:ムーディーズが1段格上げ 増発控え、市場に戸惑い』
http://mainichi.jp/life/today/news/20090519ddm008020016000c.html
なる、心底から失笑すべき記事を書き、
「財政悪化を懸念する声が強い市場では、発表前には格下げが予想されていたほど」
などと、記事中で吼えていた。
しかし、まさにムーディーズのコメント通り、日本には多額の国内貯蓄が存在(国家のバランスシートにおける「家計の資産」)し、銀行や年金が率先して国債を購入しており、外国人の国債保有率は高々5%に過ぎない。また、日本国債のほぼ100%は、自国通貨たる円建てなのだ。さらに、日本国債の金利は、世界最低を長年維持して続けているわけである。
この状況でムーディーズが日本国債の格下げなどできるはずがなく、そもそも「日本国債の格下げ」を予想していた「市場」など、この世のどこにも存在していない。日本国債の格下げを予想、と言うよりも期待していたのは、毎日新聞の記者御本人のみだろう。
ムーディーズのコメント通り、日本政府は09年に過去最大規模の国債発行を予定している。そして金利がここまで低空飛行を続ける限り、特に何の問題もなく発行していくことになるだろう。
なぜ、日本政府は順調に国債を発行できるのか。
なぜ、ムーディーズが日本国債を引き上げたのか。
これらの疑問について、今後、数回に渡り解説していきたい。