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三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第一回 日本の財政問題に関するマスメディアのミスリード(2/3)

(1/3の続き)

 ところで、日本国家のバランスシート上では、政府の負債額が974.9兆円となっており、財務省発表や共同通信の記事の数値を上回っている。これは、日銀の資金循環統計上、中央政府と地方政府の負債額が合算されているためである。974.9兆円の内、中央政府分が846兆円というわけだ。

 さて、この国家のバランスシートをよくよく見ると、ある事実に気がつかないだろうか。負債サイドの一番上に計上されている「政府の負債974.9兆円」から、少し左側に視線を動かして欲しい。

 そう。日本政府は確かに負債額も大きいが、資産の総額も決して小さくはないのである。何しろ、この日本政府の資産467.6兆円という額は、アメリカ政府を遥かに凌ぎ、政府の資産額としては世界最大なのである。(アメリカ政府の資産は、08年末時点でおよそ250兆円)

 もちろん、この日本のGDPに匹敵するような規模の資産には、政府が保有する膨大な不動産は含まれていない。あくまで日本政府が保有する金融資産のみで、世界最大なのである。

 政府としては世界最大の資産を持つ日本政府の負債額「のみ」に注目し、「財政破綻だ!」などとやっている財務省やマスメディアは、バランスシートを読み取る能力すら持ち合わせていないことを、自ら証明しているに等しい。しかも、日本政府は日本国家経済の一経済主体に過ぎないにも関わらず、「政府の借金」を「国の借金」などと、言い換えているわけである。

 言うなれば、一企業の一事業部の負債額のみに目をやり、「この企業の借金は○○○円! 破綻だ! 破綻だ!」とやっているようなものだ。また、このとき該当事業部が保有している膨大な資産については、完璧に無視を決め込んでいる。


 さらに悪質なミスリードは、Ⅱの「国民一人当たり約663万円の借金」の方である。
 マスメディアはバランスシートに「政府の負債」と計上されている、負債の中央政府分(846兆円)についてピックアップし、それを「国民一人当たり借金」などと、明らかに筋違いのフレーズで煽り、国民を不安に陥れている。

 なぜ、中央政府の負債を「国民一人当たり借金」と呼ぶことが、筋違いなのか。それは中央政府の負債の「債権者」について考えてみれば、すぐに理解できる。

 中央政府に積み上がった846兆円という「借金」は、要するにこれまでに日本政府が発行した国債の発行残高だ。日本政府は、この莫大な国債について金利を支払い、将来のある時点で償還しなければならない。

 しかし、これらの国債の債権者は誰だろうか? すなわち、日本国債を購入しているのは果たして誰なのか、という問題である。

 実は、日本国債(100%が円建て)はその95%が、銀行や年金など日本国内の機関投資家により購入されている。しかし、別に銀行や年金なども、自らのお金(自己資本)で国債を購入しているわけではない。国民から預金や年金積立金として集めたお金を活用し、日本国債を購入しているのである。

 すなわち、政府の借金の債権者とは、日本国民自身なのだ。「債務者」ではなく、「債権者」こそが日本国民なのである。日本国民はお金を借りている立場ではなく、逆に貸している方なのだ。

 政府にお金を貸しているのは日本国民であるにも関わらず、なぜ政府の借金について「国民一人当たりの借金」などと言われなければならないのだろうか。このフレーズを正しく書き改めると、「国民一人当たりの債権」となるはずである。日本国民はお金を「貸している」立場なのであるから、当然だ。

 国家としては世界最大の金持ちである日本において、資産額が世界最大の日本政府の負債問題を論じるときに、「債権者」であるはずの日本国民「一人当たり借金」などという表現を使い、危機感を煽る。「言語道断」以外に表現のしようがない。これはもはや、社会不安を煽ることを目的とした、報道テロリズムの一種ではないかとさえ疑いたくなるほどだ。

(3/3に続く)

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05月29日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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