2009.05.28

【NEW】最近のチンピラはヤッパの使い方を知らない!?(加筆改訂版)

私の住まいは東京まで電車で15分というのに、まだまだ暗い倉庫が並ぶ。特にJRの架線下は以前から無法地帯と呼ばれていた。
そこに最近、大規模なゲームセンターとレンタルCD・DVDのこれまたデカい店が出来た。そして駐車場が異様に広い。陽が暮れれば、店の電飾看板近くを離れれば雑草の生えた駐車場が広がる。その裏手はプロ野球球団・ロッテの2軍球場だ。人気は昼間からない寂しいところだ。たまに変質者も現れる。
結局、不良やチンピラ、暴走族の溜まり場になる。今までも何度か恐喝事件や暴力事件が発生している。勿論、警察側も放置していない。定期的にパトカーが巡回している。だが「犯罪」はその隙を狙って行われるものである。
私もナリがナリだし、逃げる事を知らない自称・無頼派を気取っている。過去、何度もトラブルになった。
ただ、今回は少しだけ様子が違っていた。相手はチンピラではあるが、その辺の不良や暴走族から銭を巻き上げていた。地元の「枝」に属するチンピラヤクザに違いない。
そんなヤツラと眼が合った…。
私は倅と2人だった。アメリカドラマの「Xファイル」に嵌まっている私たちは、新しいDVDを借りに行った。そこで彼らと「幸運」にも遭遇したのだ。

だが…最近の不良やチンピラヤクザもヤッパの使い方ひとつ出来ないボンボンが多過ぎる。いっちょまえに木刀と鉄パイプは持っている。多分、車にいつも仕込んでいるのだろう。だが、これらは頭さえ守れば怖くはない。とはいえ、その時は何本かアバラを折ったかもしれないと慌てたが…。
ヤッパは振り回すものではない。戦後混乱期に暴れた大山倍達ではないが、左腕にタオル1枚巻くだけで殺される心配はない。私は肩掛けバッグを左腕に巻いた。だが、直ぐにバッグは吹き飛んだ。
慌てて日頃から「御守り」として携帯している亡き芦原英幸の手裏剣(柄に小さな穴が開いており、そこに麻の紐を約1m結んでいる)を取り出し左腕につけて紐でグルグル巻いて固定した。
ヤバイのはヤッパを腰に固定して構えられた時である。
だが、この構えは余程の覚悟がなければ出来ない。腕を伸ばして突いて来るだけなら、左腕を犠牲にしさえすれば防げる。
もし、ヤッパを腰に固定して突っ込んで来られたら下手な小細工は命取りになる。心臓を最も遠くに出来る右足刀を相手の腹か下腹部にカウンターで入れるしか術はない。というより稚拙な私の技術では、それが精一杯だ。
私が学んだ大日本武徳会系柔術は警察逮捕術に採用され、講道館護身術とも呼ばれ芦原英幸のサバキ(裏)の原型になった。当然、小太刀に対する防御技術はあるし、また芦原英幸もよく実演してくれた。
だが、命を賭けて突いてくるヤッパをかわし絡め取る技だけは怖くて出来ない。私は達人でも名人でもない、ただの凡人だ。
だが今回は、そんな根性のあるチンピラはいなかったので助かった。
もっとも倅は1発の下段か中段の回し蹴りで相手を倒していった。下段蹴りで倒す…これは20年前の私でも絶対出来ない芸当だ。「実戦」では下段蹴り1発で敵が倒れるものではないという既成概念が昔から私にはあった。
下手に蹴るとしがみついてこられる。相手が1人ならいいが、複数いたら「袋」にされ易い危険がある。往年の黒澤浩樹レベルならば別だろうが…。
かつて黒澤は愚連隊相手に1発、下段を蹴っただけで相手はショック症状を起こし全身痙攣のまま救急車で運ばれた。これは実話だ。
だが現実に倅もまた下段1発で何人かを倒してしまった。


ただ半世紀も生きてきた私には倅のような派手な空手は使えない。ひたすら掌底とサバキ柔術で相手の指を折るのに専念した。
ちなみに指を折るには技術を要する。
人間の指は簡単には折れない構造になっている。皮膚が裂け、せいぜい脱臼するくらいだ。2本を握って捻り、指の第2関節を折るのが大日本武徳会系柔術の技術である。すると指を「詰めた」時以上に痛く、神経は破壊されて生涯治らない。

夜陰に紛れて3分以内に始末し、倅と2手に分かれて逃げた。しかし不覚にも足がつく証拠をレンタルビデオ屋に残してしまった。1年前の「UNIQLO事件」と同じ失敗を繰り返してしまったのだ。これで警察と組織からは逃げられなくなったと観念した…。

そして、バカをやった代償として当分寝たきりの生活を余儀なくされる事になる。背中とアバラが痛い。アバラは何とか骨折からは免れたようだが背中の激痛が続く。
背中は後ろから鉄パイプや木刀で叩かれた気がする。だが私の背中は背骨の左右に筋肉が山脈のよいに連なっている。だから背骨を傷める心配は殆どない。
それでも背中はミミズ腫れで肘の皮がベロンと剥けて痛いし、指を折ったバチか左右の指が固まったように動かない。
しかし相手はもっと痛くて泣いているだろう。勿論、病院の相部屋でだ。ヤッパや鉄パイプを振りかざし、複数で意気がるチンピラにはいい薬だ。

ヤクザ云々いっても所詮は「枝」の組に足を突っ込んでいるだけの小僧らだ。大事にはならないと踏んでいた。
地元なので、かつて「鬼の●●」と呼ばれ、今でも怖い怖い「K先生」に頭を下げて裏の話は解決してもらった。ただ所轄からの呼び出しが面倒だった。だが私たちはあくまで「被害者」である。そして「枝」とはいえ、相手は複数の地回りヤクザだ。起訴などある訳もない。
翌日、朝いちばんに所轄に呼び出されタクシーで向かったが…。背中が痛くてもう動けない。刑事さんも我々に同情的だった。事情聴取が終ると即、帰って寝た。

最近、あまりにも腹が立つ事が多い。
好いたオンナと別れる時は、酒を呑んで愚痴るより、パッ!とチンピラ相手に大立ち回りを演じるのが健全だ。怪我して激痛にのたうち回るのも悪くはない。
倅は所轄を後にすると元気にボクシングジムに行ってしまった。夕方からは綺麗な女子大生を相手に囲碁だって…風情があるねえ。
私も昔が懐かしいです。


(了)