04年12月に発生したインド洋大津波で、日本メディアの通訳兼助手としてタイ南部に同行した。当時のメモをもとにまとめた「ドキュメント」。12月26日から翌年1月19日までの25日間を、1日ずつ日記風につづる。
「現地の新聞も読めたし、俯瞰(ふかん)できる立場にいました。報道では、どうしても切り取られて伝わるところがあります。残して伝えておかなければと、自分にしかできない仕事をやろうと思いました」
死体が放つ腐臭の記述が生々しい。日ごと増加する死者・行方不明者の数が書き留められる。「現場が混乱していたなかで、自分が見たことを私小説のフォーマットに流し込んでいった感じです」
被災地を歩き続け、容易に現地から離れられなくなった。報道からこぼれ落ちた視点や光景が積み重ねられ、悲劇に見舞われた人間の営みが丹念に描き出される。
26歳のとき、勤めていた会社を辞め、その後タイに留学。日本語とタイ語のデータベース作りに取り組んだ。卒業後もタイと日本を行き来し、タイのタレントの日記やエッセーを翻訳している。
本書の副題は、タイの国民的なロックバンド「カラバオ」のリーダー、エート・カラバオさんが、津波発生のわずか3日後に発表した曲のタイトルから。「やさしさの小川を流して/アンダマンの涙を拭おう」と歌われる。
「大いにインスパイアされました。この本を書かなきゃなって」【棚部秀行】
毎日新聞 2009年5月28日 東京夕刊