麦の穂が初夏の風に揺れ、黄金色の波が立つ。麦秋(ばくしゅう)だ。米の減反政策に伴う転作で、にわかにつくり出されたものであっても、風景としては美しい。小津安二郎監督の名画「麦秋」を思い出す。
娘を嫁がせ、ふるさとで余生を送ろうと、都会を離れる老夫婦。一枚の集合写真を残して家族はちりぢりになっていく。少し切ない物語。それでも麦秋の風景が、二人をやさしく迎えてくれる。
北の隣国が、地下核実験とミサイルの乱発で、世界を震撼(しんかん)させている。かの国から実りの風景が消えて久しいようだ。一国の指導者が風向きの変化を読めないと、国民は不毛の大地を見続ける。
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